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中村桂子のちょっと一言

館長の中村桂子が、その時思うことを書き込むページです。月二回のペースで、1998年5月から更新を続けています。

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【生命誌と病気、そして学生さんへのお答え】

2001.2.1 

 風邪、どうにかなおりました。時々咳が出るという症状は残っていますが。先回鼻をグズグズしながら生命誌の中に生きていることを実感していると書きましたが、ゲノム研究の進む中、多くの病気がまさに生命誌の中に位置づけられると言ってよい時代になってきました。
 ある会合での食事時、皆がビールを注文している中で、相変わらずウーロン茶をいただく私のお隣がジンジャエールを頼んでいらっしゃるのです。あれ、大のアルコール好きではなかったかしらと思い、疑問の眼を向けますと、「糖尿病の気があってね。なんだかウーロン茶までは行きたくなくてジンジャエールなんですよ」と照れ臭そうにおっしゃいました。糖尿病の人、多いですね。
 人類は長い間飢えにさらされてきたので糖分をエネルギー源として有効に蓄積しておく必要があり、遺伝子のはたらきもそれに合うようになっている。ところが近年、文明国では飽食などという予想だにしなかった状況がおき、倹約型遺伝子が仇になり糖尿病になるのだ。こう考えると最近の糖尿病の増加が理解できます。確かに生き物の長い長い歴史の中で必要以上のカロリーを摂取したり、ほとんど運動しなかったりなどという生活はどの生き物もしたことはないでしょう。文明人といえども生命誌の中にあることを意識しなければいけないのです。
 私も最近ちょっと運動不足です。気を付けます。
P・S
 英米文学科4年生の竹内さんからメールをいただきました。就職の内定を断って経済学、政治学、生物学、文化人類学などさまざまな問題を一つの枠組みにしてこれからの人間の行くべき道を考える学問を勉強したいと思う。どこでこういうことを学べるのだろうと考えているうちに、私の考えが近いことに気づいたと言うのです。
 おっしゃるようにこれから人間を統合的に考え、行くべき道を考えることが大事になり、学問もその方向に行くに違いありません。でも残念ながら、そういう学問ができ上がっているわけではありません。私の当面のお勧めは、すでに確立している学問の一つをしっかり勉強なさることです。どれでも自分が気に入ったものでよいのです。その場合、現在の学問は分化して狭く狭く入りがちなところがありますので、関心は広く持ち、自分は人間の行くべき道を考えたいのだということを忘れずにいることです。何か一つ根っことなる学問ができたら、そこから広げていく。はじめから政治も経済も人類学も生物学もと囓っても何も見えてこないと思います。
 私の場合、化学、分子生物学、生命科学という道を通って生命誌にたどり着きました。確かにここからは、あらゆる学問、学問だけでなくあらゆる人間活動とのつながりが見えてきます。ここから統合化をしたいと思いますが、まだまだこれからです。
 お返事になったかどうか。疑問があったら遠慮なく、また書きこんで下さい。

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