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中村桂子のちょっと一言

館長の中村桂子が、その時思うことを書き込むページです。月二回のペースで、1998年5月から更新を続けています。

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【米国のMBAと農業とが結びついた嬉しさ】

2004.3.1 

中村桂子館長
 今新幹線の中で山崎養世さんという方の「田園からの産業革命(中央公論3月号)」という文を読んで嬉しくなっています。「農業は最先端産業になる」とあり、そこから21世紀の日本の姿が描いてあるからです。しかもそれが生命誌の立場から私が、21世紀は農業を基本にしましょうとか、農業は最先端産業ですと言ってきたことと100%重なりました。嬉しくなった理由は、山崎さんの経歴が、経済学部卒、米国で経済学修士(MBA)取得後証券会社を経て現在シンクタンクを作っているとあったからです。
 「生命を基本にする社会」というところからは、農業が最先端産業として興味深いものであり、それがより暮らしやすい社会づくりを支えるということはいくらでも言えます。農業というと食料生産という狭い中に閉じ込められがちですが、そうではなく、産業としても食品産業やデパート、生活の中でのお料理や食卓の囲み方などまで含む生活の基本に関わるものです。また食料生産も、時代遅れの産業などではなく、気象、土壌、生物などなど多くのことを統合した知識を必要とする先端産業です。そしてよい農業が行われることは、緑を中心にした生態系の豊かさをもつ国づくりにつながり、健康、環境、観光などさまざまな事がらがよりよい状態にある社会がイメージできます。ただ金融経済の動きの中で農業生産がなおざりにされるのに対して、同じ経済の視点で対抗するものを出す能力はないので、経済から見て欲しいと思ってきました。ヨーロッパなどの先進国はすでに一度落ちた自給率を再び高めるなど、現実に新しい農業へ向けて動いているのですから、日本もできるだろうと思っていたのですが、山崎さんの文を読んで、経済としての見方を教えられました。ただそのためには、「平成の農地改革」が必要とあり、これは第二次大戦後の改革のようには行かない難しさがあるでしょう。でも、その方向に行かなければ本当に豊かな生活はないわけですから改革があって欲しいと思います。
 先日も山にたくさんある薬草を利用して、薬膳料理や薬草風呂を工夫している村を訪れましたが、皆さん元気でした。そのような元気さがたくさんの地域から出て来ています。その力に、成長する産業としての農業をつくりあげていく政策が加われば、明るい未来が見えると思います。いろいろな立場からこの方向への提案が出てくる時代が来ているのを感じます。
 
 
 【中村桂子】


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