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中村桂子のちょっと一言

館長の中村桂子が、その時思うことを書き込むページです。月二回のペースで、1998年5月から更新を続けています。

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【イチローの魅力】

2004.10.1 

中村桂子館長
 後6本。これを書いている時点での新記録までの安打数です。厳しいかなあと思っていたら5打数5安打という日があって・・・その日は相手チームの本拠地だったのにスタンディング・オベーション。それに対してのイチローのコメントは“勝ち負けではなく、野球に対する気持ちを大事にし、尊敬してくれていると感じました”そして、“自分のベストを越えていくことは可能性があるならしたいことだし、しなくてはいけないことだと思っている”とも。この日は珍しく笑みがいっぱい。でもどこかに謙虚さを感じさせるのがイチローの魅力です。研究の世界もこうでありたいと思いました。外からのまなざしが、研究に対する気持ちを大事にし、尊敬を抱いているものであったら楽しいだろうなあと思うのです。科学と社会という言葉が流行し、社会に対するaccountability(説明責任)が重要だと言われます。責任の第一は、いかに役立つか、であり、研究者は自分の仕事を理解してもらうために、それがいかに役に立ち面白いかを説明する努力をしなさいというわけです。でも、私はなぜ野球をやっているか、野球はいかに社会の役に立つか、野球がどれほど面白いか、どんなに自分は野球を楽しんでいるか・・・そんなことを説明しなくても、多くの人に尊敬する気持ちを持たせることができるという事実があるのです。イチローは特別と言われるでしょう。その通りです。研究の多くは、税金を使って行われているのだという指摘もあるでしょう。それもその通りです。ですから当事者が無責任であってはいはけません。ベストを尽くし、次にはそれを越えるという気持でなければ。でも研究も、説明など考えずに、大事と思うことを思いきりやって、それを最もよい方法で表現し、社会の人々もそれを楽しむという方が、結局はよい結果が出るのではないでしょうか。しかも、社会としての品が良くなるでしょう。研究の場にいるので研究で考えてきましたけれど、これはいろいろな場で言えることだと思います。品格のある社会に暮らしたいものです。すべての人に、早く結果を出しなさい、勝負に勝ちなさいと要求し、アピールできた人は大威張りということをやっていると、品とは程遠くなります。品とは謙虚さのことですから。
 
 
 【中村桂子】


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