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中村桂子のちょっと一言

館長の中村桂子が、その時思うことを書き込むページです。月二回のペースで、1998年5月から更新を続けています。

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【エルンスト博士の応援に感激】

2004.11.15 

中村桂子館長
 先日、ノーベル賞受賞者を囲むフォーラム「21世紀の創造」の中の、「科学と社会の接点を求めて」でコーディネーター役をしました。この題、以前から言っていますように「科学と社会」の“と”がよくありません。実は英語では「The Role of the Scientists in Society」となっておりこちらの方がよいですね。でも今日の話題はこれではありません。フォーラムでは参加者は全員化学賞受賞者で、白川英樹、野依良治、田中耕一のお三方とスイスのチューリッヒ連邦工科大学のリヒャルト・エルンストさん。お話にそれぞれの方の個性が出ていて楽しい会でしたが、会の報告も今日の話題ではありません。実は、この会合でとても嬉しい体験をしましたので、そのお話をしたいのです。エルンストさんとは初対面。御挨拶をしたら第一声が「あなたの仕事はとても面白い」だったのです。驚きました。私はもちろんエルンストさんのお仕事については、一応調べていきました。ノーベル賞受賞理由は、「高分解能NMR分光学の方法論」の開発です。「パルス法」によってNMRの 解像度を飛躍的に向上させた結果、今これは生命科学の基礎研究、医療などで大活躍しています。私の方がその程度のことを知っているのはあたりまえ。でも、その逆は思いもよらないことでした。
「BRHのホームページを見てとても面白いと思った」とおっしゃるのです。フォーラムですから、ゆっくりお話をする機会が少なかったのですが、合間に何度もBRHのことを話題にして下さいました。「こういう活動は他にはない、とてもユニークなものだと思う。そしてとても大事なことだ」と評価して下さったのです。チェロが大好きで作曲も手がけ、一時は音楽家になろうかと思ったとのことです。けれども中学生の頃に屋根裏で見つけた薬品を混ぜ合わせたところ、爆発したり、おかしな匂いがしたりしたので、それが面白くなって化学の世界に入ったとのこと(事故を起こさなくてよかったですね)。今は、チベット曼陀羅の世界有数のコレクターだそうで、今回のお話の中にも登場しました。思想表現として魅力的だということで、チベット僧に科学を教える活動もなさっています。科学と仏教の間のやりとり面白そうですね。
 ここから浮かび上がるのは、まさに a scientist in societyであり、科学と社会という感覚とは合いません。
 BRHのことは、欧米の研究者にお話すると関心を示されますし、積極的に訪ねてきて下さった方もあります。でも、今回は思いがけない場での応援で、改めて身を引き締めました。これまで英語での発信にあまり力を入れる余裕がなく来てしまっていましたが、来年度はそこに力を入れようと話し合っていたところでした。エルンストさんとの出会いは、その活動にはずみをつけてくれました。
 
 
 【中村桂子】


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