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中村桂子のちょっと一言

館長の中村桂子が、その時思うことを書き込むページです。月二回のペースで、1998年5月から更新を続けています。

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【音楽は脳全体で楽しむ】

2005.2.1 

中村桂子館長
 ピアニストの江戸京子さん(今はアリオン音楽財団理事長)が20年間続けていらした「東京の夏音楽祭」の今年のテーマは「宇宙・音楽・心」。今から楽しみです。その中の一つのプログラムを科学と子どもを意識したものにしたいと考えていらっしゃるとのことで御相談を受け、いろいろお話をしました。それがどんなプログラムになるかはこれからのお楽しみというところですが。
 その時、人間の特徴はなにかという話になりました。このところ、「ゲノムと言語」を考えている私としては、やはり「言葉」を思い浮かべます。でも音楽もそうですね。少なくとも三万年以上前の人類が骨で笛、打楽器、口琴を作っていたことがわかっています。しかも、どこにも音楽はあり、それぞれ特徴はあるけれど、どこの音楽も、私たちの心を打つものを持っています。最近は人間について「進化生物学」で説明することが流行していますので、いろいろな説があるようです。たとえば人間らしさの起源はグルーミング(毛づくろい)にあると言っているR.M.Dunbar(英国、リバプール大学)は、人間集団が大きくなりグルーミングだけでは社会的つながりが保てなくなった時に、音楽がそれに代るものとして生れたという説を出しているようです。人間は社会的動物であり、お互いにコミュニケーションをし、信頼関係をつくることが重要ですが、その最初は毛づくろいであり、そこから言葉も生まれてきたというのがDunbarの考えです。一方、言葉を重視するS.Pinker(米国・ハーバード大学)は、たまたま脳への心地よい刺激が生き残っただけで、音楽は偶然の産物と言っているとのこと。いろいろ考え方はあるようですが、どれも自分の説の中にうまくおさめるような考え方を出しているようにも見えます。まだ、お話として聞いておくことなのだろうと思います。
 音楽に関する研究で面白いと思うのは、言葉と違って音楽には、音楽専用の「中枢」はなく、脳全体のさまざまな領域が関わっているらしいという結果です。しかも、音楽を聴いた時脳のどこがはたらくかは、人それぞれ。また一人の人でもどんな音に反応するかは教育・経験によって変っていくのだそうです。
 こういう話になると、また誰かがすぐ早期音楽教育などというところに持って行きそうですが。とにかく人間の脳は、全体で心地よい音楽を楽しめる構造になっているらしいので、赤ちゃんもきれいな音を聴かせていれば、とても楽しい気分になることは確かでしょう。まさに音楽です。
 
 
 【中村桂子】


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