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中村桂子のちょっと一言

館長の中村桂子が、その時思うことを書き込むページです。月二回のペースで、1998年5月から更新を続けています。

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【連詩と生命誌】

2006.11.15 

中村桂子館長
 「宇宙連詩」に参加しました。連歌は日本の伝統的な詩形ですが、それを拡大した連詩は大岡信さんなどによって始められ、国内だけでなく、世界に広まっています。詩は本来個人的なものですが、共同創作によって、個性を出すと同時に全体の調和も見られるようにするという、生きものの世界から見てとても興味深いものがここにはあります。五行の詩に始まって三行の詩、五行の詩と続いていく間に、思いがけない展開をするところは、発生や進化みたいですし、創っている人たちの楽しんでいる様子が見えて来て楽しいのです。
 宇宙連詩は、皆で作ったものを宇宙ステーションの中の日本実験棟「きぼう」に打ち上げるという計画であり、そのお仲間に入れていただきました。私のところに送られてきた詩は、

いちにのさんっ、未知なる世界へ飛び出そう
陸から空へ 夜から朝へ 闇から光への ロングジャーニー
きっとどこかで僕を待つ まだ見ぬ君に会いに行く
たんつう(研究者・29歳)

でした。大岡信さんから指示された連詩の心得には、
・ 全体の流れではなく直前の詩だけ見ること
・ できるだけ前の話からポンと飛ぶこと
・ 具体性を持たせること
・ 生活感・ユーモアがあるのもよい
・ あまり宇宙にこだわらない
とありました。さあどうしよう。恐らく深く考えず、時間をかけず、素直に自分を出すのが連歌、連詩の基本かなと思い、思いつくまま書いてみたところ、まず出てきたのが、

君と僕との 1DK
ノミがピョンとはねて言う 広すぎる
ゾウをお客には招けない
でも 宇宙から見れば
ノミも 人間も ゾウも同じさ

相変わらずの生命誌です。少し外向きにしようと思ったら出て来たのが、

月へのパック旅行
ガイドさんが にこやかに語りかける
竹取の じじ ばばは 元気かしら
青い海 輝く緑 優しい人
なつかしいわ あの星が

もう少し広げて、

少年たちを乗せて 銀河を駆け抜ける列車
小さな星で 一本のバラを育てる王子様
宇宙には 夢がいっぱい
私も仲間に入ろう
もう一つの夢を抱えて

 大岡さんが選んで下さったのが“パック旅行”でした。大東文化大のJanine Beichmanさんが次のような英語にして下さいました。

   "On a package tour to the Moon
   our guide turns to us with a warm smile
   How are the old bamboo cutter and his wife these days?
   The oceans so blue the sparkling green the kind people
   How I miss your star!

ここでおもしろいと思ったのは、“語りかける”が“turns to us”になっていることです。電話で話しているうちに、英語は“誰が誰に”ということが明確でなければいけないということがよくわかりました。日本語の場合、ここに“私たちに”などと入れたらうるさいですよね。なるほどです。
 中味はともかく、連想の面白さを楽しむことができて、この連想の力は仕事にも生かして行けそうだと刺激を受けました。異分野との交流って集まって机を囲んでも何も出て来ませんが、こういう形で教えられるのはいいなと思いました。


 【中村桂子】


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