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中村桂子のちょっと一言

館長の中村桂子が、その時思うことを書き込むページです。月二回のペースで、1998年5月から更新を続けています。

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【クゥもナヌーもこちらを見つめて何か言いたげです】

2007.9.3 

中村桂子館長
 「河童のクゥ」で始まった夏休みでしたが、終りに「北極のナヌー」に会ってきました。クゥもナヌーも、人間の勝手な行為のせいでとても生きにくくなっている中でけなげに生きています。クゥの方はアニメーションでしたが、今回はドキュメンタリーの中のドキュメンタリー。ナショナル ジオグラフィック フィルムズの製作で、10年間という長期撮影、自然の美しさと恐ろしさをたっぷり見せてくれます。主役はホッキョクグマのナヌーです。半年間の穴ずまいの後、お母さんに連れられて双子の弟と一緒に狩りに出るのですが、地球温暖化の影響で氷がどんどん溶け、狩り場が減り、なかなか餌にめぐり合えません。氷が薄くなり足元から溶けていくのは切なかったです。映画の内容を細かく語るのは止めますが、体重1トンにもなるというセイウチがいつも大きな群で暮らしており、母親の他にもう一頭子守役がいて子どもを守っているというもう一つの物語りも迫力がありました。クマの他にも氷あっての暮らしをしている生きものたちがたくさんいるのです。セイウチの群が暮らす氷の山が小さくなっていくと、それまでのんびり仲良くひなたぼっこをしていたセイウチたちがお互いをつつき合い、険悪な雰囲気になるのが印象的でした。
 −50度にもなる氷の世界、想像しただけで凍りそうですが、それが彼らの楽園なのです。ところがこの30年間、10年間で10%づつ氷が減り、時速100キロものブリザードが起きるなど気候が荒々しくなってきました。最後の「このまま行くと2040年には北極の氷はなくなっているのではないか」という文字はやはり恐かったですね。
 それにしても、生きものっておかしな存在ですね。セイウチなんて、なんであんなに大きな体にならなければいけなかったんだろう、もっと身軽なら変化への対応もしやすかろうにと勝手に思いますが、セイウチはセイウチとして、なんで私たちがこんな思いをしなければならないのだなどとは思わず、とにかくけんめいに生きているわけです。そのセイウチが生きにくい環境を作ってしまってはいけない。もちろんナヌーの暮らす場所を奪っちゃいけない。この夏の連日35度を越える暑さにも参りましたし。考えなければいけませんね。
 新しい内閣も、経済成長しか生きる道はないと言っています。でもそれは違うんじゃないでしょうか。もっと賢い生き方がある、生きる基本に戻った生き方があると思うのです。


 【中村桂子】


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