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中村桂子のちょっと一言

館長の中村桂子が、その時思うことを書き込むページです。月二回のペースで、1998年5月から更新を続けています。

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【基本の大切さを説くリーダー、いいなと思います】

2009.2.2 

中村桂子館長
 オバマ米大統領就任演説。テレビを通してですけれど直接語りかけられているような感じで、聞かされましたね。翌日の新聞で、全文を一語一句ていねいに読みましたが、余分も不足もない内容にさすがと思いました。候補だった時に、“Change”と言い、人々から“Yes, we can.”という言葉を引き出しておき、いざリーダーになったら“さて、あなた方がやるべきことはこれですよ”と基本を示す。みごとですね。
 「今日、私たちは恐怖より希望を、対立と不和より目的を共有することを選び、ここに集まった。今日、私たちは、長らく我が国の政治の首を絞めてきた、狭量な不満や口約束、非難や古びた教義を終わらせると宣言する。」
 本当に今日からそうしましょう。もちろんアメリカがそうであって欲しいけれど、この“私たち”の中には、私も入りますと思わず言っていました。それは日本とアメリカという国の話ではなく、地球に暮らす一人としていう素直な気持です。
 「私たちの挑戦は新しいものかもしれない。立ち向かう手段も新しいものかもしれない。だが、成否を左右する価値観は勤労と誠実さ、勇気と公平さ、寛容と好奇心、忠誠と愛国心、といったものだ。これは古くから変わらない。そしてこれらは真理だ。私たちの歴史を通じて、これらは前に進む静かな力となってきた。必要なのは、こうした真理に立ち返ることだ。今私たちに求められているのは新たな責任の時代だ。」
 勤労、誠実、勇気、公正、寛容、好奇心、忠誠、愛国心。政府、官庁、企業、大学・・・さまざまなリーダーから最近こういう言葉を聞かなくなりました。一つ一つの言葉というより、人間として、社会として基本に置かなければならないことを大事にしようというメッセージです。私だったらどんな言葉を選ぶか・・・考えました。
 テレビを見ていて、最も強く響いてきたのはResponsibilityという言葉でした。これも久しぶりに聞いたという気がします。最近言われるのはAccountability(説明責任)。そうじゃなくて大事なのはResponsibilityでしょうと思ってきました。本当の語源や意味は手元にあるOEDを調べる程度ではわかりませんが、Account(s)はまず勘定書という言葉を思い浮かべさせられ、いかにも数量的な感じがして嫌いなのです。辻褄が合ってればいいでしょうという感じがしますし、事実そういうところがありますよね。
 もちろんこの複雑な社会をすぐに変えられるものではありません。現実は難しいことがたくさんあるでしょう。でも少し時間がかかっても皆でよい方向への努力をしましょうという気持が出てきたことが嬉しいですね。それにしてもなぜ、日本では基本に立ち戻って考えましょう、行動しましょうと呼びかけ、その気にさせてくれるリーダーが出ないのでしょう。目先の利害だけで動いている・・・政府も官庁も企業も大学も。その中でうまく立ち回る人がリーダーですという顔をしている。ここから抜け出したいですね。でも今回の経験で、リーダーって皆でつくるものだということがよくわかりましたから、他人事みたいに言ってちゃいけませんね。私たちでつくらなくては。

 【中村桂子】


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