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中村桂子のちょっと一言

館長の中村桂子が、その時思うことを書き込むページです。月二回のペースで、1998年5月から更新を続けています。

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【教育について考え始めたところです】

2010.11.1 

中村桂子館長
 最近「教育」のことを考え始めました。これまでは、何が大事かを考え、いっしょうけんめいにやっていれば、若い人が見てくれると思ってきました。質問されたり、アドバイスを求められれば、自分の力の範囲でできるだけのことはするようにしてきましたし、それはやり甲斐のあることです。考えたことを上手に受け止めてよい仕事をしてくれる人を見るととても嬉しくなります。ただ、教えるとか育てるとかということになると、どうしてよいかわからなくなるというのが正直な気持なのです。
 実は最近、以前に録画してあったレナード・バーンスタインの「Young People's Concert」を系統的に観て強く感じるところがありました。全部で25話。「音楽ってなに?」から始まり、「交響曲はどのように作られる」は、モーツァルトの「ジュピター」やベートーヴェンの「英雄」、ブラームスの第2番などを素材に語っていきます。ジャズの回もあり(若い頃にアルバイトでジャズピアノを弾いていたとか)、ショスタコーヴィッチも登場します。ていねいに解説しながら、自らのピアノとニューヨークフィルの演奏で「音楽そのもの」を教えていく様子は本当に魅力的でした。バーンスタインは「 “知識へのすさまじい渇望” を持っており、だからこそ演奏や作曲だけでなく、音楽について教えることをせずにはいられなかった」と長女が書いているとのこと(バーンスタインの弟子の佐渡裕さんの紹介です)。会場には小さな子どももたくさんいるのですが、話の質はとても高く、易しくしようとか、わかりやすくしようという様子はまったくありません。クイズの回があったり、やさしく語りかけたりはしていますが。音楽について、または音楽家について感じたこと、そこから得た喜こびを自分のこととして語っているので、子どもも真剣です(時にアクビをしたり、眠そうにしている子もいるのはしかたのないこと)。教える方法とか術とかを考えるのでなく、伝えたいことを伝えるのでよいとすれば・・・今頃になって、もしかしたら教育って避けていてはいけないことかなと考え始めています。

 【中村桂子】


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