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中村桂子のちょっと一言

館長の中村桂子が、その時思うことを書き込むページです。月二回のペースで、1998年5月から更新を続けています。

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【新年に思う】

2012.1.5 

中村桂子館長
新年おめでとうございます。昨年は本当に大変な年でしたので、今年はよい年にしたいと強く思います。よい年と言えば、世界全体がそうであって欲しいのですが、まず自分のところ、BRHについて考えるところから始めなければなりません。
 そこで昨年をふり返りますと、実はBRHは着実に進めてきた仕事がよい成果につながった年でした。生きものたちの「生きている」を見つめ、それを基本に私たちが「生きる」姿を考えていくのがBRHですから、重要なのは生きもの研究の進め方です。当初(1991年)、DNA研究を基盤とする生命科学ではまったく眼を向けられていなかった「多様な生きもの」をとりあげ身近な“小さな生きもの”を研究しようという方針を立てました。もう一つの切り口は、遺伝子でなくゲノムを見るということです。多様性をDNAからも捉えようと考えたのです。
 そこで最初に選んだのがオサムシ、チョウ、藻類でした。オサムシでは、その進化が日本列島形成を語るという思いがけない成果があり(詳しくはこちらのページを見て下さい)、地球と生きものの関連を見る新分野が盛んになるきっかけを作りました。それまで趣味の世界にいた昆虫たちを研究の世界に引き出す役割をしたと思っています。その後ゲノム解析が進み、生命科学研究にもさまざまな生きものたちが登場するようになり、その中で特徴ある研究をすることに努めてきました。イチジクとコバチの関係から見る昆虫と植物の共進化、多様性の権化である昆虫の全体像の把握、昆虫とは少し違うクモから見える節足動物と脊椎動物の関係、独特の食草をもつチョウを用いた植物と昆虫の進化、アフリカツメガエルとイモリという同じ両生類なのに違いのある発生過程。どれも小さな生きものが語ってくれる大きな謎です。少しづつ明らかになる事実が面白いのですが、昨年はチョウとクモのグループで画期的な成果を出すことができ、メディアにもたくさんとり上げられました(生命誌カード、ホームページで紹介していますのでごらん下さい)。
 研究は積み重ねですので、長い苦労を必要とします。今年も着実に進め、次のよい成果を出したいと思っています。このように生きものの実態を手にしながら「生きているとはどういうことか」という基本テーマを頭でっかちにならないように考えていくのがBRHの特徴です。実験室での研究に根を置いての表現グループの活動、更にはそれを社会のありようにまでつなげて考える私の役目については次回にします。「生命誌」はますます大事になっていると自負しながら小さな歩みを続けていきます。今年も是非私たちの活動に関心を持って下さり、この欄にも参加して下さい。よろしくお願いいたします。

 【中村桂子】


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