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中村桂子のちょっと一言

館長の中村桂子が、その時思うことを書き込むページです。月二回のペースで、1998年5月から更新を続けています。

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科学が社会に役に立つということ

2012.3.1

中村桂子館長
 ここは、日常雑事を綴る場としていますが、今回どう考えてもおかしいと思うこと、直さなければいけないと思うことを書きます。昨年の10月17日に信濃毎日新聞に書いた文から始めます。
信濃毎日新聞 2012年10月17日
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 ここにあげた「東北メディカル・メガバンク構想」のことです。これを書いた時には、政治がからんでいるとはいえ、これを進めようとしているのはある研究者仲間であり、少しきつい言葉を使うなら、災害を対象にした予算をうまく利用して我が田に水を引こうとしているのだろう、困ったことだと思っていました。しかし、先日日本のゲノム研究で中心的役割をしているグループの会合に出てびっくりしました。「メガバンク構想」に年間50億円、10年間で500億円という予算がついてしまったけれど、あれはどうやって動くのだろうと懸念しているのです。東北大学にはこのような形でゲノム研究を進める基盤があるわけではないので、大学も困っているとも聞きました。なんということでしょう。恐らく、建物が建ち、解析用機器がたくさん購入されるでしょう。でも、東北の方達の医療がよくなることはありません。しかも研究としてもよいものになりそうもないとしたら。東北の復興は一日を争うことですし、国の財政は消費税をあげなければどうにもならないと言っている中で、こんなことが行なわれているのです。政治家にしてみればたかが50億でしょう。でもたとえ1円でも10円でも国の予算は心して使わなければいけないのに。恐らくこれだけではないだろうと思わざるを得ません。仲間は予算がついてしまったからと言っています。できるだけよい使い方をするようにしなければいけないけれど難しいと言っています。
 「東北の医療」は大きな問題です。それを前にしてこんな事をしていていいわけがありません。出直せないものかしらと言っても、研究者としては難しいという答になり歯痒い思いをしています。研究者一人一人はお友達として大事な人ですし、こんなことを考えずにすめばうれしいのですけれど。

 【中村桂子】


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