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中村桂子のちょっと一言

館長の中村桂子が、その時思うことを書き込むページです。月二回のペースで、1998年5月から更新を続けています。

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【「我々いきもの家族」を描くすてきな女性】

2012年7月17日

中村桂子

7月になると京都の街は祇園祭です。今年は14日〜16日の宵山が三連休なので、大勢の人出が期待されているようです。

そろそろ賑わい始めている10日夜、京都の街ですてきな方、すばらしい作品に出会いました。月の半分以上は京都に暮らしていますので、京都ならではの巡り合いに恵まれ楽しんできましたが、これまで存じ上げなかったのが残念です。蒔絵工芸作家の足立康庸さん。60代の小柄な、失礼を省みずに申し上げるならとても可愛らしい女性です。特徴は、生きものが大好きなこと。子どもの頃からとくに虫が好きだったという、まさに蟲愛づる姫君です。作品集の題が「我々いきもの家族」であり、扉には森清範清水寺貫主の「萬物同根」という書があるのですから、生命誌とピタリ重なります。箱、盆、皿、飾板などに描かれているのはアリ、ハチ、スズムシ、トンボ、クモ、カマキリ、メダカ、ナマズ、コウモリ、ウサギなどなど。みな生き生きとしかもユーモラスです。美しさは改めて言うまでもありません。作品を並べると動く生命誌絵巻になります。何かに所属するのでなく独自の世界を作り上げていらしたのですから強い方なのでしょうが、そんなところが一つもない自然で柔らかくて・・・このところ権力やお金の醜さばかり見せつけられて、日頃99%暗くても1%明るいところがあったらそこを見ようときめている私もちょっと疲れ気味でした。そこに、こんな生き方があるんだと驚くようななんともすてきな女性が現れ、さわやかな空気が体の中に流れ込んできて元気になりました。

大分の由布院に蒔絵美術館「康庸」があるとのことですし、いつかまた展覧会があると期待します。是非ごらん下さい。ちょうど季節ですので、飾板「祇園祭 蟷螂山」(蒔絵 我々いきもの家族 足立康庸作品集Ⅱ)を紹介します。カマキリの山鉾、カブトムシもハチも力いっぱいひいています。紹介したいものばかりですがもう一つ、「蜘蛛は何処に」古酒器(足立康庸作品集)。とてもお洒落でしょ。

ただお話を伺っていると環境は厳しいようです。そもそも蒔絵づくりの道具を作ってくれるところが消えて行きつつあるとのこと。京都以外ではすでになくなっているので、もしここで消えたらどうなるのでしょう。またお金と権力だけで動く人々のことが思い出されてしまいました。


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「蜘蛛は何処に」古酒器


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「祇園祭 蟷螂山」飾板

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