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中村桂子のちょっと一言

館長の中村桂子が、その時思うことを書き込むページです。月二回のペースで、1998年5月から更新を続けています。

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【ノーベル賞おめでとうございます】

2012年10月15日

中村桂子

京都大学の山中伸弥教授のノーベル医学・生理学賞おめでとうございます!領土の話などで暗い顔ばかりしていたニュースキャスターも満面の笑みでよかったなあと思いました。山中先生のお仕事への情熱とお人柄のすばらしさは尊敬していますけれど、テレビ、新聞、インターネットなどあらゆるメディアに情報が溢れていますので、ここでは同時受賞のジョン・ガードン(J.B.Gurdon)ケンブリッジ大学名誉教授をちょっと御紹介します。

ガードン博士は岡田節人初代館長の仲の良いお友達で、BRHを応援して下さっています。「季刊生命誌」のvol1のNo1(通巻2号、1993春)の最初のページにはガードン博士の「ケンブリッジからの便り」があり、生命誌研究館への期待を書いて下さっています。そして、「季刊生命誌17号」(1997秋)には、京都で開かれた「発生生物学の半世紀」(岡田名誉館長主催)というシンポジウムの後、主要メンバーがBRHを訪ねて下さった時の写真があります。皆さん、とても楽しんで下さいました。その中にガードン博士がいらっしゃいます。いかにも英国風、もっとはっきり言えばケンブリッジ風の雰囲気が伝わるとよいのですが。

カエルの卵から核をとり除いた後、そこにオタマジャクシの皮膚の細胞の核を入れたら、みごとにオタマジャクシが生まれたというお仕事は、1962年、ちょうど50年前に発表されました。体細胞の核も、体全体を作る能力を持っていることを示し、世界を驚かせた研究です。受精卵はどんな細胞にもなれるのに、皮膚細胞になったら皮膚細胞以外にはなれません。この間に何が変わったのだろうという問いは、誰もがもつ素朴な問いであり、同時に生物学の最先端の問いです。お二人の研究は、とにかく一度変化したものが元に戻ることを示したので、体細胞の初期化ということでガードン・山中の共同受賞になりました。でもまだ具体的に何が起きているかがわかったわけではありません。そこはこれから若い人たちが解いていくとても大事で興味深いテーマです。自分の受賞は山中さんのおかげと語るガードン博士の謙虚な様子に、御一緒した時の落ち着いた優しい雰囲気をなつかしく思い出しました。ガードン博士が研究なさったのと同じカエル(アフリカツメガエル)が、BRHの水槽で泳ぎながらまだまだやることありますよと言っています。小さいけれど大事なこと、BRHはこの精神で新しいことに挑戦していこうと改めて思ったことでした。

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