1. トップ
  2. 語り合う
  3. 「生物多様性」って知っていますか

中村桂子のちょっと一言

館長の中村桂子が、その時思うことを書き込むページです。月二回のペースで、1998年5月から更新を続けています。

バックナンバー

「生物多様性」って知っていますか

2014年11月4日

今年「環境問題に関する世論調査」が行なわれ、その中に『「生物多様性」の意味を知っていますか』という問いがあります。回答の選択肢は(ア)言葉の意味を知っている、(イ)意味は知らないが言葉は聞いたことがある、(ウ)聞いたこともないとなっており、(ア)が16.7%、(イ)が29.7%、(ウ)52.4%という数字になっています。2年前に行なった前回の回答では、(ア)19.4%、(イ)36.3%、(ウ)41.4%なので、聞いたこともないという人がふえ、知っている人が減っていることになります。「生物多様性」というあたりまえのことを「聞いたこともない」と答える人が半数以上いて、しかもそれは2年前よりふえているとなると、どうなっているのかなと考えこみます。

ただ、よく見ると調査する側の考え方にちょっと疑問がわきます。アンケートでは、質問の前にまずこれをよく読んでもらいますという資料があります。そこに『「生物多様性」とは「つながり」と「個性」と言い換えることができます。「つながり」とは食物連鎖などの生きもの同士のつながりと、長い進化の歴史を経たいのちのつながりのことです。「個性」とはアサリの貝殻の模様が千差万別であるように同じ種であっても個体に違いがあることです。(以下略)』と書いてあるのです。「生物多様性」って要は「生きものっていろいろいるよね。」ということですよね。そう思って生きものを見ると「どの生きものもいっしょうけんめい生きているし、お互い関わり合いがある」ことが見えてくるわけで、知識というより感覚であり実感だと思うのです。

それがここでは「言葉の意味を知識として持つ」ことに意味があることになっており、しかもそこに面倒な説明がついているのです。そこでそんな言葉聞いたこともないという人が50%以上いる社会ということになってしまうわけです。これっておかしくないでしょうか。いろいろいる生きものを身近に感じられるようにすることの大切さはここからは出て来ません。むしろとても難しいことのように思えて、関係ないとなってしまいます。これに限らず言葉だけで動くことへの疑問をこの頃よく感じます。たとえば「女性の輝く日本」とか。

中村桂子の「ちょっと一言」最新号へ