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ラボ日記

研究セクターのスタッフが、日常で思ったことや実験の現場の様子を紹介します。
月二回、スタッフが交替で更新しています。

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【「きれい」と感じたその感覚】

金山真紀
 先日、大阪の京橋にある大阪ビジネスパーク(OBP)でわくわく宝島2007が開催され、読売テレビで放映されていました。わがBRHも紹介ブースを出展させていただくことになったため、私もクモの卵の神秘さや研究を知ってもらおうと「博士役」としてブースに参加させていただきました。クモの卵や産まれたばかりの幼生や、クモのオスメス、ムービーのためのパソコンを持参しました。
 私が参加した時は、尾崎ラボの宇戸口さんがチョウの幼虫や標本を、橋本ラボの永友さんがアフリカツメガエルの卵から大人までを持ってきてくれたりしたので色々な生き物が生で見られる状況となっていました。
 子供連れの家族がたくさん訪れてくれていました。動かないし、気味悪がられる傾向にあるクモは一番人気がないだろうなと構えていたのですが、案の定人気はなく、「クモ」と聞いただけで顔をしかめるお子さんもいらっしゃいました。オオヒメグモは体も小さくて、そんな恐ろしい部分はないけれども、先入観が働くとはこういうことなんだなと。アフリカツメガエル、蝶の幼虫とも、虫や生き物が嫌いな人は顔をしかめ、気持ち悪がります。しかし、そこにいるのは生きている生き物なのだということです。
 チョウの幼虫を子供が直に触れ合えるように宇戸口さんがセッティングしてくれており、はじめは触るのも怖がっていた子供も、きゃっきゃっと言いながら後にはかわいがるようになっていたことが印象深いことでした。また、アフリカツメガエルのアルビノを見て、血管が見えるのを怖がる方もいらっしゃれば、色素の少ない病気にかかっていらっしゃる友達の方を思い起こされて、親御さんが子供さんに丁寧に教えてさしあげるといった姿も見られました。ムービーで見るクモの卵の透明さをきれいという子供もいれば、そこに気持ち悪さを感じる方もいる。顕微鏡でのぞいたチョウの羽の鱗粉に「きれい」と答えてくれた子供さんもいる。アフリカツメガエルの発生の緻密さに驚く方もいる。人それぞれ、展示されているものに対して受け止める気持ちは様々です。そこにいる生き物は同じものであっても、人の心1つでここまで千差万別であり、人によって見える真実は変わりうるのだということです。
 僕は当日、そして帰宅した後も、どうして1つのことに対して「美しい」「気味が悪い」とか、(人によっては「好き」「嫌い」になったりするのでしょうね)という2つの相反する感覚が生まれるのだろうかと思惟していました。それは人それぞれ、心のあり方が違うからだよと言ってしまえばそれが答えなのかもしれません。それぞれの人の体験に基づくのかもしれませんし、好きも嫌いも偏見なのかもしれません。確かにまったく違う形をした別種の生き物を「好き」というのは人間だけの感覚なのかもしれません。怖がるのが普通なのかもしれません。
 しかし、生きている生き物を見て、そこに「好き」「美しい」というものを見つけられる感覚は、実は単に「気持ち悪い」と思うよりもよっぽど幸せな感覚なんじゃないでしょうか。
 どんな物事でも、拒絶する前に、一度自分の目で観てみる。意外とかわいらしい顔をしているアフリカツメガエルや、足で口をお手入れしたりして人間臭い仕草をするオオヒメグモ。そんな発見も、1つの生きる楽しみ方であり、科学の楽しみの一歩だと思うのです。






[ハエとクモ、そしてヒトの祖先を知ろうラボ 金山真紀]

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