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ラボ日記

研究セクターのスタッフが、日常で思ったことや実験の現場の様子を紹介します。
月二回、スタッフが交替で更新しています。

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【いきものの魅力】

楠見淳子
 先日、蘇研究員が採集してきたコバチのサンプルを顕微鏡で観察していたので、いくつかのサンプルを見せていただきました。なかでも、虫こぶの中の蛹の姿はとても印象的でした。カプセルのような半透明の殻の中に、羽化寸前の蛹が巧妙に収まっている様子は美しく、しばらく見入ってしまいました。そういう感動は、生き物の研究を続けるモチベーションを支えてくれるものです。
 BRHに来てイチジク植物とイチジクコバチの研究を始めて一年が過ぎようとしています。ここ一年は、日本や中国、台湾各地から採集され、すでにラボに蓄積されたサンプルを使って実験を進めてきました。実験といっても、それぞれのサンプルのDNAの塩基配列を決め、それをもとにした系統解析、各地の集団の遺伝的な多様性を比較解析することが主なので、ちいさなチューブに入っている透明なDNAの溶液がすべてです。確かに、それだけでも実験自体には支障がないのですが、毎日その繰り返しではいけないと常々感じます。例えば、得られた塩基配列のデータを、ある計算プログラムをつかってコンピューターで解析すると、「A種はB種よりもC種に近い」という答えが返ってきます。A種、B種、C種の写真を見たり、文献を読んだりすれば、実物を一度も見た事がないとしても、その答えを理解することはできます。しかし、実感は湧いてこないものです。つまり、結果を見ても「なるほど。」とか「なぜ?」という結果に対する自分の解釈が弱くなるように思います。万事に通じることですが、「百聞は一見に如かず」、実物を見たときの感覚や観察して得られる情報量は、写真や文献を通しては得ることはできないのだと思います。

 3月に入って一雨ごとに暖かくなり、いきものたちも活き活きとしてきました。今年の春こそは、野外にでて観察、採集する機会を是非つくりたいと思っています。



[DNAから共進化を探るラボ 楠見淳子]

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