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ラボ日記

研究セクターのスタッフが、日常で思ったことや実験の現場の様子を紹介します。
月二回、スタッフが交替で更新しています。

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【クモのゲノムはいつ?】

小田広樹
 先私たちは今から9年ぐらい前にオオヒメグモと呼ばれるクモを生態学の研究者に教えてもらい、その飼いやすさと胚発生の美しさに惚れて研究を始めました。振り返ると、当時はあまり周りが見えていなかったとつくづく思います。たまたまRNA干渉と呼ばれる遺伝子の機能を調べるための新しい実験手法が出てきて、たまたまその手法とこのクモとの相性が非常によかったおかげで、私たちはなんとかまともな研究者として研究できている、と思います。
 最近、そのオオヒメグモが広がりを見せています。というのは、ヨーロッバの複数の研究グループがオオヒメグモを使い始めているのです。このクモの有用性が認められてきたと言っていいでしょう。ある研究室の人は、オオヒメグモのことをAchaearanea melanogasterと呼んでいると冗談を言っていました (オオヒメグモの学名はAchaearanea tepidariorumで、有名なキイロショウジョウバエはDrosophila melanogasterなので)。オオヒメグモはヨーロッパにもアメリカにもごく普通にいるクモなので誰でもすぐに研究が始められます。
 オオヒメグモを使い始めた研究者や他の研究者から最近よく聞かれるのが、「ゲノムを読むための準備はしていないのか?」とか、「ゲノムは読んでいないの?」とかです。私としては、「もう少しオオヒメグモを使う研究者が増えないと難しいんじゃないかな」と答えることにしていますが、すると、「読めば使う人も増えるんじゃない」と言う人もいます。
 アメリカでヒトゲノム1000ドルプロジェクトというのがあるように、ゲノムを読むためのコストはこれからもどんどん下がることが期待されます。オオヒメグモのゲノムを読むことの利益とバランスがとれるぐらいにコストが下がるのも時間の問題かもしれません。最後に一番重要になるのはオオヒメグモを使って何ができるのかであって、オオヒメグモのもつ特性を活かした研究を展開できなければ、研究は単なる確認作業となってしまうでしょう。



[ハエとクモ、そしてヒトの祖先を知ろうラボ 小田広樹]

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