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ラボ日記

研究セクターのスタッフが、日常で思ったことや実験の現場の様子を紹介します。
月二回、スタッフが交替で更新しています。

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【待てる、待てない】

秋山-小田康子
 相変わらずspider timeで過ごす毎日です。クモの産卵と発生に合わせて活動するという意味ですが。もう少しで今のテーマに関して一通りのデータが取り終わる(と信じている)ので、あと一息がんばろうと思います。
 クモをつかって実験していて凄いなと最近感じていることは、その驚異的な回復力です。実験で異常を起こしたはずの卵や調子の悪い卵が徐々に回復し、正常よりずっと時間をかけながらも最終的にはクモの形が出来上がってしまいます。もちろん、ここがうまくいかなければ確実に回復しないというポイントもあるようですが、縮こまって単なる細胞の塊のようになっていたはずなのに、次の日に見ると脚らしきものが生え始めていたりして仰天してしまうこともあります。頭の方の発生の調子が悪ければ、尾の方も少し待っていて、全体としてゆっくりと形を作り上げていくことができるようです。こんな風に「待てる」ことは、ショウジョウバエとは非常に違うように思います。ショウジョウバエでは、例えば、細胞分裂が胞胚期以降に全く起こらないような突然変異体でも、細胞の数が少なかろうが細胞が大きいままであろうがお構いなしに、どんどん発生プログラムが進んで、神経系のマーカー遺伝子を発現させたり、からだ全体の形を作ろうとしたりします。ショウジョウバエは「待てない」のです。待てるのと、待てないのとでは、発生プログラムにどんな違いがあるのでしょうか?この違いを知るには、時間をもっと組み入れたような理解が必要になってくるのだと思います。クモは、からだ全体を協調して作り上げるようなシステムが発達しているのでしょう。クモの研究を通して、そういう協調させるシステムが明らかになったらおもしろいです。



[ハエとクモ、そしてヒトの祖先を知ろうラボ 秋山-小田康子]

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