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ラボ日記

研究セクターのスタッフが、日常で思ったことや実験の現場の様子を紹介します。
月二回、スタッフが交替で更新しています。

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【卵に打て!!】

金山真紀 高村薫氏の『リヴィエラを撃て』を最近読み終えたばかりなので、このようなタイトルになりました。ここ2−3年と最近ですが、ファンになってしまい文庫本になっているものを読んでいます。文庫本はかなりの加筆があるとのこと、ハードカバー版も読まないと本当のファンとは言えないのかもしれません。
 ところで話がぐるりと本題へ、「名札」をつけるというのは生き物の研究の世界ではとても大切なことです。飼っているクモをタロウジロウ、と呼ぶ訳ではないのですけれど、名札を付けてあげないと、今このクモがどういう状態なのか、わからなくなるのです。何回卵を産んだのか、卵の品質はどうか、どんな遺伝子の機能を抑制した状態なのか、等。実はこの名札をつける作業は、飼っている生き物それ自体にとどまりません。生き物の実験自体が、どうやって名札をつけるかにかかっているといってもいいでしょう。下村博士のノーベル賞受賞対象となった、光るタンパクGFPはその最たるものです。普通タンパクの動きは見えないものですが、GFPをタンパクにくっつけてやると光ってその動きが見えるというわけです。この生き物の中にある様々な仕組みをどうやって浮かび上がらせようか。そのためにどうやって目印をつけてあげようかというわけです。
 そういうわけで、今私は新しい実験方法に取り組んでいます。それはクモの卵に注射することです。一部の細胞に名札をつけてやれば、その細胞がどう動いているかがわかります。「細胞がどういう動きをしているのか」を知ることが一番の目的です。カエル、マウス、ゼブラフィッシュなどの多くのモデル生物ではよく蛍光色素やmRNAが注射されていますが、クモでこれができるのか?
 毎日細い注射針を使って試行錯誤です。中にいれることができても、細胞に取り込まれなかったりします。たくさんの卵にとにかく打ちまくっていると、クモの初期胚の細胞がどのような状態なのか、打つ位置はここか、など注意すべき点がわかってきます。実験ってこういう試行錯誤できる時間が楽しいのです。とうとう、打つコツが見えてきました。mRNAを打って、光るGFPを見て、一安心。暗闇の中に浮かび上がる光は、星のよう。まだ開発途中ですが、興味ある遺伝子のmRNAを打ったり、遺伝子の機能を阻害する物質を入れることができれば、その細胞がどう振る舞うかを調べ、その仕組みを探ることもできそうです。
 そうこうしているうちに、11月から12月にかけて、なにかとせわしくなってきました。去年の今頃は同じ研究室の先輩の春田さんの就職活動を応援していたのに、どうやら自分の番です。セミナーや説明会などが迫ってきました。投稿する論文も書き上げなくてはなりません(さらに足りないデータを出さなくてはいけません)。12月上旬には世界の研究者たちと交流を兼ねたウィンタースクールがあり、沖縄へ飛びます。これは英語漬けの一週間になりそうで、また英語脳を作り直さないと、と必死です。内心はわくわく。
 最近は本当に色々何かが来ますね。それが楽しい。何か来る時は自分が強くなるチャンス。研究も、人生も。


核移行シグナルをつけたGFPの mRNAを注射したクモ胚。特定の波長の光を当てると、GFPタンパクのある細胞の核が光って見えている。


[ハエとクモ、そしてヒトの祖先を知ろうラボ 金山真紀]

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