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ラボ日記

研究セクターのスタッフが、日常で思ったことや実験の現場の様子を紹介します。
月二回、スタッフが交替で更新しています。

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【固定は奥が深い】

秋山-小田康子 気付くともう師走。早いですね。自分の研究のこと、事業仕分けのニュース、心穏やかならぬ日々を送っています。現在進行中のプロジェクトに関しては、いよいよ、あと一息、って前回もそう書いたような気がしますが・・・。私たちの考えが確からしいということを、他の研究者にも納得してもらえるように、年末までにもうひと仕事です。でも、嬉しいニュースもあります。同じ研究室の春田さんの投稿論文が受理されました。本当におめでとう! 隣のベンチで彼の頑張りをこの5年間ずっと見てきましたので、私も嬉しいです。あとはD論。春には立派な社会人ですね。
 さて、生き物の体の中のことを知るために、固定を行います。固定というのはピンなどで物理的に留めることではなく、体の中の組織や細胞、物質をなるべくそのままの状態を保って化学的に動かなくすることです。そして固定した材料を用いて、いつどこで遺伝子が働いているかを調べたりするのです。もちろん最終的には固定なんて必要なしに、生きたままで遺伝子の発現や物質の動き、シグナルのやり取り、細胞の様子を一度に全部見ることができたらと思うのですが、現在のところまだまだ。私たちの扱っているオオヒメグモの卵は、まあまあの状態で固定できます。固定した卵を用いて、in situハイブリダイゼーションは問題なくできますし、抗体染色もいくつかのものではうまくいっています。でも、卵の中の細胞のさらに細かい所までもっと良い状態で固定できたら、違う世界が広がっているのではないか、と思うのです。では、どんなふうに固定法を改善していくのか? 参考にしようと調べたショウジョウバエのプロトコール集には固定のための試薬が数多く載っていました。ホルマリンはもちろん、酢酸、アセトン、メタノール、そうそう以前どなたかからかいただいたプロトコールには水銀も出てきました。方法に関しても激しく振るのはかなり一般的ですが、ボイルするとか、電子レンジでチンなんていうのもあります。このような試薬や方法のいろいろは固定に関する、つまり生き物の内側を知るための、多くの研究者の工夫のあらわれなのだと思います。DNAやRNAの性質はどんな生き物でも基本的には同じですから、新しい生き物を用いて遺伝子を取るのにさほどの大変さは感じません。しかし生き物ごとに異なっている卵や細胞を扱うのは一苦労です。一見地味な固定というステップに奥の深さを感じます。今の目標はクモの卵の一番外側の細胞層と卵黄の間をうまく固定すること。どんな方法が良いのでしょうね。

[ハエとクモ、そしてヒトの祖先を知ろうラボ 秋山-小田康子]

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