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表現スタッフ日記

展示季刊「生命誌」を企画・制作する「表現を通して生きものを考えるセクター」のスタッフが、日頃に思うことや展示のメイキング裏話を紹介します。月二回、スタッフが交替で更新しています。

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【想像するって難しい】

山崎 梓 気がつけば頭上から降るように聞こえていたセミの鳴き声も無くなり、空もすっかり秋らしくなっていました。生命誌研究館まで通う途中に見かける草木や虫たちも、これから少しずつ秋の様子へと変わっていくのでしょう。
 今年の夏は、研究館で貸し出している音声ガイドのナレーションの一部を担当させてもらい、大きな達成感を味わうことができました。担当したのは、二階ギャラリーの展示「愛づる・時 〜生命誌がひらく生きものの絵巻物語」です。自分が昆虫の研究をしていることもあり、展示の主人公 “蟲愛づる姫君” には勝手に親近感を覚えていたので、張り切ってパパっと仕上げよう、と楽観的に構えていました。しかし、ナレーションの原稿を書き始めてみるとそんな考えはあっという間に吹き飛びました。姫君とめぐる絵巻物語の展示は、「生きている」とはどういうことか、「生きる」とは何かという生命誌のテーマを、38億年続いた「生きものが紡ぐ時間」という大きな視点でとらえていることに気付いたからです。ただ展示されている絵巻の文章をまとめるだけでは、何の意味もないと気付いた時は焦りました。言葉にして伝える、という普段何気なくやっている行為の延長線であるはずなのに、こんなに難しいなんて...。
 考えばかりがグルグル頭の中を回っている時、村田さんの「実際に展示の前に立ってやってみたら?」という一言にハッとしました。私は、音声ガイドを聴きながら展示を見てくれる人たちの事が頭から抜けていたのです。絵巻の前に立って文章を読み、絵を見ている時に音声ガイドから流れる私の言葉はどのような役割を果たすのか、想像することが出来ていなかったのでした。ここで何を伝えたいのかを考えながら原稿を書く事で、スランプ (?)を抜け出せたと思います。この経験で、想像することの大切さを実感しただけでなく、生命誌に対する理解を深めることが出来ました。日頃の館内案内にも活かしたいと思っています。さて、肝心の音声ガイドは録音も済ませ、来館受付で貸し出し中です。実は、自分の声を聞くのが恥ずかしくて、まだきちんと聞き直していないのですが、実際に手に取って聞いてもらえるところを想像するのが楽しみでもあります。

 [ 山崎 梓 ]

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