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表現スタッフ日記

展示季刊「生命誌」を企画・制作する「表現を通して生きものを考えるセクター」のスタッフが、日頃に思うことや展示のメイキング裏話を紹介します。月二回、スタッフが交替で更新しています。

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【里山と人との関わり方から考えること】

吉田幸弘 初めまして、8月より展示ガイドを始めました、吉田幸弘と申します。この原稿を書いている時点ではまだほとんどガイドをしていないので、今回は、私自身の研究に関する話をしたいと思います。
 私は植物を専門としているのですが、調査対象地のほとんどは「里山」と言われる場所です。里山は、ご飯を炊いたり松明を灯したりする際に用いる燃料を採集する、つまり、生えている木を燃料にするために切り倒してきた場所のことです。
 薪や炭を燃やすと、温暖化の原因としても注目されている二酸化炭素が発生しますが、しかし、この二酸化炭素を吸収することで、里山の木々は成長します。そして、成長した里山の木々は切り倒され、再び薪や炭になります。現在では里山は、このようなサイクルを適切に利用することで、「持続可能な社会」に必要な「再生可能なエネルギー」を得られる場として注目されているのです。
 里山は少なくとも江戸時代から昭和時代初期にかけて頻繁に使われていたことから、「里山は素晴らしい」「昔の人たちは自然と共生していた」と、キラキラとしたイメージを持ち称賛する人たちもいます。しかし実際には、少なくとも江戸時代後期から明治時代にかけて、禿山化する里山が多数存在したと言われています。禿山化したのは、木々が成長するスピードよりも速く伐採してしまい、やがて木々が死に絶えてしまったためと考えられています。つまり、人間の都合だけで木々の過度の伐採を行った結果、里山そのものを利用できなくなってしまった、ということです。このことから、生物の一員である人間が存続していくためには、生物の一員であることを自覚し、他の生物のことも考えながら生きていくことが必要ではないか、と私は考えています。
 ところで、BRHの展示ガイドを行う中で冒頭に紹介することの多い「生命誌絵巻」は、まさに「人間も生物の一員」であることを考えさせる展示作品となっています。この展示の解説の際には、聞いてくださる方々に私の思いが少しでも伝わるよう、力を入れてガイドしていきたいと思います。

 [ 吉田幸弘 ]

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