ショウジョウバエの形態形成

ショウジョウバエの成虫 ショウジョウバエの卵割胚
イーストを塗ったグレープの寒天プレートにたくさんの卵を産む。 形はフットボール形をしている。卵黄を覆うように上皮細胞層が形成される。

初期発生
 キイロショウジョウバエ (Drosophila melanogaster) は、多細胞動物の中でも最もよく研究されている動物のひとつである。この20年間の研究では、体の形や行動を支配する遺伝子や分子が次から次に発見され、その働きが詳しく調べられてきた。しかし、いくらショウジョウバエの研究が進んでいるとは言え、まだわからないことはたくさんある。体を構成する個々の細胞のことを考えてみると、どうやってそれぞれの細胞が自身の大きさや形、向き、分裂などを制御しているのかはあまりわかっていない。

ショウジョウバエの原腸陥入

 原腸陥入 (gastrulation) と呼ばれる、体の形作りで最初に起こる極めて重要な形態形成運動では、個々の細胞は全体の中のどこに位置するかによって異なった制御を受け、ある細胞集団はその形をダイナミックに変化させるなかでも、将来筋肉などになる中胚葉細胞は形の変化の激しい細胞である。今まで発生個体で起こる細胞の変化を正確に記述することは非常に難しいことだったが、私たちは「細胞間結合構造が光るハエ」を作製することによって、中胚葉細胞が胚内部に陥入していく様子をビデオに記録することに成功した(動画1)。ひとたび陥入運動が開始すると、体の中心線近傍の細胞はそれぞれがアピカル表面 (胚の外側に露出している細胞表面) を積極的に縮める。なかには一時的にその面積が広げられてしまう細胞もいるが、すべての細胞のアピカル表面が最小まで縮まってから細胞シートが内部に折れ曲がり始める。一方、中心線から離れた細胞は中心線側の細胞に引っ張られるようにして胚内部に入っていく。運動が始まって約20分後には、中胚葉細胞は完全に胚内部に胚ってしまい、何事もなかったかのようにその部分は外胚葉細胞によってふさがれてしまう。folded gastrulationと呼ばれる突然変異体の観察では、中心線付近の細胞がアピカル面を十分に縮めことができず、細胞シートが突然本を閉じるように折れ曲がってしまう(動画2)。 分泌タンパク質をコードするfolded gastrulationは細胞の形の変化を誘導するシグナルとして働いている。原腸陥入の研究に関する詳しいことは、Oda et al., (1998)Oda and Tsukita (2001) に記述されている。

動画1: 正常胚の陥入
動画2: folded gastrulation突然変異胚の陥入

1.  Oda, H., Tsukita, S., Takeichi, M. (1998).  Dynamic behavior of the cadherin-based cell-cell adhesion system during Drosophila gastrulation.  Dev. Biol. 203, 435-450.
2.  Oda, H. and Tsukita, S. (2001)  Real-time imaging of cell-cell adherens junction reveals that Drosophila mesoderm invagination begins with two phases of apical constriction of cells.  J. Cell Sci. 114, 493-501.

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