「ものを見る」ことはあまりにも容易です。目を開ければ、目の前の世界が何の苦労もなく美しく見え、何が(もしくは誰が)どこにあってどんな様子をしているということが瞬間的にわかります。しかし、この際に、脳が行っている仕事は膨大で、しかも謎に満ちています。かの有名な物理学者リチャード・ファインマンは、視覚を、「プールの一角に浮かぶ昆虫が、四方八方からやってくる波の様子から、プールの中の人たちの数、位置、動きを検出する」ことに喩えました。この比喩は、網膜で受容した光の(すなわち電磁波という波の)情報から、見ているものの位置、形、色、明るさ、動きなどを計算している私たちの脳の働きの規模と難しさを、見事に要約しています。
世界を見るためには目玉だけでなく脳が必要なのです。網膜に投影された色の付いた影ともいうべき2次元の網膜像から眼前の3次元世界を再構成すること、これが、「ものを見る脳の働き」、すなわち、「視覚」です。脳が世界を見ています。その仕組みを、私を含めた脳の科学者がのぞき込もうとしています。そして、その研究から、人間や動物のことをもっと深く知ろうとしています。「脳が見る、脳を見る、そして脳から見る」というこのページのタイトルはそういう意味です。
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