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遺伝学 発生学 動物 中部、北陸
  マシジミの雄性発生ってなあに
顔写真
氏名   古丸 明
name Komaru Akira
e-mail komaru@bio.mie-u.ac.jp
住所1 三重大学生物資源学部生命圏生物科学科
住所2 三重県津市上浜町1515
telephone 059−231−9527
facsimile 059−231−9527
住所3
こまる・あきら/もともと、農林水産省の水産研究所で二枚貝の育種(品種改良)の仕事に関わっていました。様々なことをやりました。ホタテ貝の仲間の染色体の数を人為的に増やしたりすると(染色体操作とよんでいます)成熟や、成長がどうなるか、という仕事や、アコヤガイ(真珠養殖の母貝)の貝殻の色が白い突然変異個体が、真珠の色の改良に有効であるという仕事、等々、二枚貝を筏で飼育しながら研究をしていました。二枚貝は普通はプランクトンを食べており、大きくなってしまえば餌をやる必要はないのですが、浮遊幼生の間はタンク内で、餌をやったり、水を換えたりしなければなりません。どちらかというと、3Kに属する仕事ですが、受精卵の発生していく過程や、幼生が日々大きくなっていく様子、変態といって、浮遊生活から底生生活に移っていく時の体の劇的な変化。その一連の過程を実際に見ることが出来たことはこの上もなく幸せなことでした。
 平成10年に三重大学生物資源学部に移りました。若い人たちのきらきらした個性に接するとき、幸せな気分になります(頭にくることも多々ありますが。。)。大学に移って興味の対象が広がりました。水産業に関わっていく仕事のほかに、淡水産の 二枚貝の不思議な世界に今ひかれています。ここでは主に淡水産の貝のことを主に紹 介します。たぶん淡水域は母なる安定した海にくらべて、厳しい環境だったのでしょうか。そのため、淡水産二枚貝には海産の二枚貝と比較して、かなり、奇想天外な生活をするものがふくまれています。ここでは、あまり広く知られていないのですが、身の回りにごく普通にいる生物に、さまざまな不思議な秘密が隠されているということをすこしずつ、紹介したいと思っています。少しでも興味をもっていただければ幸いです。
 クローンってなんでしょうか。人間が作った特殊な生物、何となく気持ち悪いもの、という感じをもっておられるでしょうか。しかし、自然では、クローン発生をする生き物は意外と多く知られています。
 私たちの身近にいる(いた)フナ、イモリの仲間、ミジンコの仲間、クラゲの仲間等ではクローン発生は特殊なことではないのです。自然に生息しているクローン生物のことをもっと知る必要があると思います。それが性について知ること、進化について知ることにつながっていけばと夢想しています。
<卵の染色体が全部極体として放出される>

 

 常識やぶりなマシジミのお話
を紹介しましょう。このマシジミは小川や池等の淡水域に生息しています。雌雄同体で、同じ個体が精子と卵の両方を作り、自家受精により発生します。また、マシジミは染色体が3組ある、三倍体という生物であることがしられています。
 通常の生物では卵は第一減数分裂の途中で受精し、二回の減数分裂によって2個の極体を放出し、卵由来の染色体を放出し、その結果、半数体の雌性前核とよばれる核と精子由来の核が融合して、第一卵割以降発生が進んでいきます。

図に示したのはマシジミ受精卵の極体形成過程です。しかし、卵の動物極側に第一減数分裂の分裂装置があります。中央部に染色体がきれいにならんでいます。Bでは染色体が両極にわかれていきます。C、Dでは2つの星状体の周辺の細胞質が次第に突き出していきます。この突出部の先端に近い部位に染色体があります。Eで示したようにこの突出部はそのまま極体となります。すなわち、一回の減数分裂で2個の極体が同時に形成されます。そして、すべての染色体が2個の極体のなかに含まれていることにご注意ください。卵由来の染色体はすべて捨てられて、雌性前核が形成されないわけです。この時期には、細胞質の中には精子由来の核が一個あるのみです。この精子の遺伝情報のみで発生が進んでいきます。これを雄性発生とよんでいます。
 マシジミは自分の精子の情報のみで発生する、「雄性発生」と呼ばれる動物界ではまれな発生様式で繁殖しています。マシジミは自家受精で発生しますので、ほかの個体と遺伝子を交換することなく、クローン、あるいはそれに近い状態で発生しているわけです。孫悟空が、自分の毛をちぎって、ふっとふくと、数多くの孫悟空のコピーが出現する、というお話を西遊記で読んだことがありますが、あれは体細胞コピーですから、一応減数分裂、受精という過程を経るマシジミの場合とは厳密にいえば少し異なります。
 日本に分布するマシジミは私たちの調べた限りでは、雄性発生しています。また、世界中で分布を拡大しているマシジミの近縁種タイワンシジミも、雄性発生していることがわかりました。最初、雄性発生はごく限られた状況下での特殊な出来事だとおもっていましたが、北米、南米、ヨーロッパはいうに及ばず、オーストラリアにも出現しているのです。最近ではケンブリッジ大学の大学院生が、とうとうイングランドにもやってきた、というメイルをくれました。シジミが空を飛ぶわけありませんから、何かにくっついて移動するのでしょう。いずれにしても、良くわからないことが多いですね。

 クローン発生をする生物は積極的に遺伝的多様性を生み出す仕組みをもっていませんから、進化の本流からははずれてしまっているのでしょう。また、環境が大きく変わったり、病気に感染したりすると、遺伝子型が同じ場合、いっせいに絶滅する可能性が大きくなります。また、一般的にはこのような変異の乏しい生き物は、「種」としての寿命が比較的短いとされています。このような危険性をはらんだまま、なぜ、このような繁殖法で、どっこい生きているのでしょうか。
 また、種というか、クローンの寿命が、通常の生物より比較的短いとしても、通常の減数分裂する種から次々に新しいクローンがうまれているのではと考えています。マシジミでは種内の遺伝的変異性が非常に乏しいのですが、近縁の雄性発生タイワン シジミでは数多くの遺伝的に異なるクローンが存在することがわかってきました。クローンが比較的短い期間(進化的にですよ)で次々と生じ、置き換わっているのかもしれません。でもそれはまだ想像にすぎませんが。

 研究が途上ですが、身の回りに結構いろんな不思議な生物がいるということを知っていただきたくてこの拙文を書きました。シジミは私たちの想像を遥かにこえた壮大なフィールドでの実験を遂行中なのです。マシジミに関していえば、短期的に見れば成功をしているようにみえますが、進化的にはどうなのでしょうか?「雄性発生シジミは覇者たりえるのでしょうか?」  私たちは不思議な世界のほんのその一角をみているにすぎないのでしょう。雄性発生という繁殖方法を持つものがどのようにしてその祖先型から派生してきたのか?その祖先型は現存するのか?雄性発生する集団(クローン)の寿命がどれくらいあるのか?また、種概念とか分類はどうなるのか等興味は尽きません。しじみ生物学は奥行き深い果てしない森であることだけわかってきました。生物は私たちの想像の及ぶ範囲をはるかに超越して、したたかに生きています。生物を常識の枠内でとらえないほうががよいとおもっているこのごろです。
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