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<卵の染色体が全部極体として放出される> 常識やぶりなマシジミのお話を紹介しましょう。このマシジミは小川や池等の淡水域に生息しています。雌雄同体で、同じ個体が精子と卵の両方を作り、自家受精により発生します。また、マシジミは染色体が3組ある、三倍体という生物であることがしられています。 通常の生物では卵は第一減数分裂の途中で受精し、二回の減数分裂によって2個の極体を放出し、卵由来の染色体を放出し、その結果、半数体の雌性前核とよばれる核と精子由来の核が融合して、第一卵割以降発生が進んでいきます。 図に示したのはマシジミ受精卵の極体形成過程です。しかし、卵の動物極側に第一減数分裂の分裂装置があります。中央部に染色体がきれいにならんでいます。Bでは染色体が両極にわかれていきます。C、Dでは2つの星状体の周辺の細胞質が次第に突き出していきます。この突出部の先端に近い部位に染色体があります。Eで示したようにこの突出部はそのまま極体となります。すなわち、一回の減数分裂で2個の極体が同時に形成されます。そして、すべての染色体が2個の極体のなかに含まれていることにご注意ください。卵由来の染色体はすべて捨てられて、雌性前核が形成されないわけです。この時期には、細胞質の中には精子由来の核が一個あるのみです。この精子の遺伝情報のみで発生が進んでいきます。これを雄性発生とよんでいます。 マシジミは自分の精子の情報のみで発生する、「雄性発生」と呼ばれる動物界ではまれな発生様式で繁殖しています。マシジミは自家受精で発生しますので、ほかの個体と遺伝子を交換することなく、クローン、あるいはそれに近い状態で発生しているわけです。孫悟空が、自分の毛をちぎって、ふっとふくと、数多くの孫悟空のコピーが出現する、というお話を西遊記で読んだことがありますが、あれは体細胞コピーですから、一応減数分裂、受精という過程を経るマシジミの場合とは厳密にいえば少し異なります。 日本に分布するマシジミは私たちの調べた限りでは、雄性発生しています。また、世界中で分布を拡大しているマシジミの近縁種タイワンシジミも、雄性発生していることがわかりました。最初、雄性発生はごく限られた状況下での特殊な出来事だとおもっていましたが、北米、南米、ヨーロッパはいうに及ばず、オーストラリアにも出現しているのです。最近ではケンブリッジ大学の大学院生が、とうとうイングランドにもやってきた、というメイルをくれました。シジミが空を飛ぶわけありませんから、何かにくっついて移動するのでしょう。いずれにしても、良くわからないことが多いですね。 クローン発生をする生物は積極的に遺伝的多様性を生み出す仕組みをもっていませんから、進化の本流からははずれてしまっているのでしょう。また、環境が大きく変わったり、病気に感染したりすると、遺伝子型が同じ場合、いっせいに絶滅する可能性が大きくなります。また、一般的にはこのような変異の乏しい生き物は、「種」としての寿命が比較的短いとされています。このような危険性をはらんだまま、なぜ、このような繁殖法で、どっこい生きているのでしょうか。 また、種というか、クローンの寿命が、通常の生物より比較的短いとしても、通常の減数分裂する種から次々に新しいクローンがうまれているのではと考えています。マシジミでは種内の遺伝的変異性が非常に乏しいのですが、近縁の雄性発生タイワン シジミでは数多くの遺伝的に異なるクローンが存在することがわかってきました。クローンが比較的短い期間(進化的にですよ)で次々と生じ、置き換わっているのかもしれません。でもそれはまだ想像にすぎませんが。 研究が途上ですが、身の回りに結構いろんな不思議な生物がいるということを知っていただきたくてこの拙文を書きました。シジミは私たちの想像を遥かにこえた壮大なフィールドでの実験を遂行中なのです。マシジミに関していえば、短期的に見れば成功をしているようにみえますが、進化的にはどうなのでしょうか?「雄性発生シジミは覇者たりえるのでしょうか?」 私たちは不思議な世界のほんのその一角をみているにすぎないのでしょう。雄性発生という繁殖方法を持つものがどのようにしてその祖先型から派生してきたのか?その祖先型は現存するのか?雄性発生する集団(クローン)の寿命がどれくらいあるのか?また、種概念とか分類はどうなるのか等興味は尽きません。しじみ生物学は奥行き深い果てしない森であることだけわかってきました。生物は私たちの想像の及ぶ範囲をはるかに超越して、したたかに生きています。生物を常識の枠内でとらえないほうががよいとおもっているこのごろです。 |
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