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  地球生物圏フロンティア(深海・地底・南極)の微生物
顔写真
氏名   長沼 毅
name Takeshi Naganumaname
e-mail takn@hiroshima-u.ac.jp
住所1 広島大学 生物生産学部 生物海洋学研究室
住所2 なし。
telephone 000-0000-0000
facsimile 000-0000-0000
住所3
ながぬま ・たけし/「生命の起源」研究で有名な原田馨先生を慕って筑波大学生物学類に入学。しかし、肝心の原田先生は別の学類(自然学類)の所属、人生痛恨の勘違いでした。生物学類からそのまま大学院(生物科学研究科)に進学し、微生物生理生態学の関文威先生に師事しました。来る日も来る日も水質分析と微生物の培養・計数ばかりの生活に辟易してきた頃、関先生が深海熱水噴出孔の微生物研究に着手され始め、私も参加させて頂きましたので、結果オーライです。フィジーとニューカレドニアの間の深海底調査航海に二度参加しました。これが縁となって、修了後、海洋科学技術センター深海研究部に就職することができましたので、本当に結果オーライです。

  海洋科学技術センターでは潜水調査船「しんかい2000」や「しんかい6500」などに乗って研究させて頂きました。ちょっとした冒険気分も味わえる、やりがいのある職場でした。また、理研(当時)の掘越弘毅先生の研究室や、カリフォルニア大学サンタバーバラ校へも派遣して頂き、分子生態学や組織培養・細胞培養などを学ぶことができたのは、自分の視野や技術を広げる上で大変良かったことだと思っています(深く感謝しております)。

  サンタバーバラから帰国して一年半後に広島大学に移りました。ここでは生物海洋学研究室の上真一教授と一緒に海洋プランクトンの生理・生態学を行ってきました。今まで遠い分野だった海洋プランクトンの生態や紫外線の影響に関する仕事は興味深く、また、自分の自然観を深める良い契機でもありました。今では、「山河森海」と銘打って、瀬戸内海の生物生産における海陸リンクの重要性を調べています。
 
 本来の本業だった深海調査でも「深海底だけ見てても深海のことは分からない、海底のさらに下を見なくてはダメだ」と思うようになり、国際深海掘削計画(ODP)にも参加し始めたところです。また、深海掘削は研究機会が限られていますので、陸上掘削研究にも参加させて頂いております。核燃料サイクル開発機構の東濃地科学センターには大変なお世話になっており、鉱山内に地底ラボを設置して頂いたり、学生を派遣させて頂いてしております。私自身、鉱山保安教育を受講した‘鉱山労働者’として坑道に入るのが何よりの楽しみになっています。
 2000年は私にとって素晴らしい年でした。まず、1.2月にイタリア南極調査隊に参加させて頂いたのです。国立極地研究所の神田啓史先生の御指導のもと、静岡大学理学部の増沢武弘先生と一緒にイタリア南極基地(テラノバベイ基地)に滞在し、陸上生態系(主にコケ群落)の調査をしながら、南極微生物の採取・培養を行いました。深海微生物・地底微生物という極限微生物の研究の延長として、南極微生物を対象としたのです。さらに9月には東京大学海洋研究所の玉木賢策先生が率いる北極海海嶺研究航海に参加させて頂きました。一年のうちに南極と北極の両方に行けるなんて、本当にエキサイティングな年でした。
 こうして改めて自分のプロフィールを振り返ると、ずいぶんと楽しい研究人生を送ってきたのだなと思います。これからは、楽しみや喜びを一人でも多くの人と共有していきたいと思っています。大学院生をぼちぼち外に出しているのは決して部屋が狭いからという理由ではないのだよ、院生諸君!

  質の高い研究を量産できれば、つまり、効率の良い研究を維持できれば、それに越したことはありません。しかし、教育という(ある意味では)効率の悪い研究システムにあって私にできること、それは一人でも多くの若者が夢をもってサイエンスに打ち込める環境を整えることかもしれないと思い始めています。実際の就職難や研究費窮乏の改善までは力が及びませんが、夢を語るための精神的バックグラウンドの向上には尽力したいと思います。
スライド、この一枚
  私は、地球生物圏のフロンティア(辺境)に生きる者に興味を持ち、深海生物の調査を行ってきました。太陽光の届かない暗黒の世界、そこでは光合成による生物生産はなく、もっぱら海洋表層からの‘おこぼれ’に頼って生きていくしかありません。しかし、深海底には地球内部から熱と化学物質(水素、硫化水素など)が湧き出す場所(熱水噴出孔)があり、それを利用した異質な生態系ができあがっています。光合成に依存した「太陽を食べる生態系」と、深海底で脈脈と生き延びてきた「地球を食べる生態系」があるということです。しかし、最近になってもっと異質な生態系のあることが分かってきました。

  「熱水噴出孔」は海底面のニキビのようなもので、地球内部から熱と物質が噴き出すところです。伊豆・小笠原弧の海底火山(水曜海山、水深1347 m)の高温熱水(297℃)を潜水船「しんかい2000」で採取して調べたところ、たくさんの微生物細胞が観察されました。その密度は105~106 ml-1にも達していました。周囲海水はもっと低密度(104 ml-1)でしたので、これらの微生物は周囲海水からの混入ではなく熱水中に存在していたと考えて良さそうです。
  しかし、300℃を超える高温で微生物は生きていけるのでしょうか?今まで知られている最高生育温度は113℃(古細菌Pyrolobus fumari)ですから、熱水中に観察された微生物は高温熱水そのものではなく、他のどこかで繁殖していたものの一部が熱水噴出に巻き込まれたのだと考えるのが妥当でしょう。では、熱水中の微生物はそれまでどこで繁殖していたのでしょうか?
 
  熱水噴出孔がある海底の岩盤は亀裂が多く、岩石内部にも意外なほど空隙があります。大西洋の真ん中を南北に走る巨大海底山脈-大西洋中央海嶺には、世界最大の熱水噴出孔TAG熱水マウンドがあります〔既知の最高生育温度を示す古細菌Pyrolobus fumariはここから分離されました〕。TAGマウンドの海底下20 mの岩石では空隙率が15%にも達します。岩石圏といえども、水と空間と必要な化学物質(水素、硫化水素など)があれば、微生物の生態系が広がっているはず、TAGマウンドの下はまさにそういう場所でした。
 
  私たちは潜水船「しんかい6500」のMODE98行動(主席:藤岡換太郎先生)でTAGマウンドから噴き出す熱水と岩石を採取し、そこから微生物を培養しました。熱水噴出孔の内壁はパイライト(黄鉄鉱、FeS2)という鉱物が沈着し黄金色に輝いていました。ドイツの弁護士Wachtershauser氏が提唱する「生命の起源=パイライト仮説」にかぶれている私は、まず、この熱水パイライトを顕微鏡で見てみました。すると、パイライト表面に、微生物が群れるようにコロニーを形成しているのが分かりました(写真:撮影は核燃料サイクル開発機構の人形峠環境技術センター)。海底下の微生物圏への期待大です。
  TAG熱水マウンドからは噴出する高温熱水(>300℃)も採取し、微生物の培養を試みたところ、ハロモナス(Halomonas)という好塩菌を分離することができました(どうやって300℃の高温に耐えたのはかは分かりませんが)。この微生物は塩分ほとんどゼロからNaCl 20%という高塩分まで生育できます。海水塩分が約3%ですから、どれだけ‘辛い’か想像できるでしょう。熱水噴出孔の深部では高温に熱せられた地下水(亀裂の多い岩盤に浸み込んだ海水)が気液分離し、その結果、低塩分水と高塩分水ができます。好塩菌ハロモナスは、この海底下の高塩分環境に適応し、TAGマウンドの海底下に未知の好塩菌ハビタットが広がっているのかもしれません。なお、TAGマウンドの直上海水(計100ml程度)や付近の深海生物(イソギンチャク2個体)からハロモナスは検出できませんでした。
  TAGマウンドから培養した好塩菌はハロモナス・バリアビリス(Halomonas variabilis、Hvと略記)に近縁(たぶん同種)であることが分かりました。16S rRNA遺伝子解析をしたところ、TAG-Hvはなんと南極産のHvと亜種か亜々種レベルで近縁であることが分かりました。TAGマウンドと南極では、一万キロメートルの距離以上に、生息環境が違いすぎます。これは一体どういうことなのか?私はぜひ自分の手で南極産Hvを捕まえたいと思いました。
  チャンスは意外に早く訪れました。国立極地研究所の神田啓史先生の御尽力により、イタリア南極調査隊への参加が認められたのです。静岡大学の増沢武弘と一緒に「南極域における生物地理学的多様性の研究」(主目的は南極コケ類の生態調査)ということで、イタリア南極基地であるテラノバベイ基地(TNBと略記)に約一ヶ月ほど滞在しました。
  コケ調査をしながら、私はせっせとHv培養用のサンプルを採取しました。意外に思われるかも知れませんが、南極はけっこう高塩分環境が多いのです。水という水はほとんど固体(氷)で、液体の水に乏しい乾燥した大地、それが南極です。土壌のほとんど発達していない地面のあちこちから塩が析出し、かなり高塩分の池もありました。
  今、私の手許には南極TNB産のHv菌があります。この南極TNB-Hvと大西洋TAG-Hvの遺伝子を比べてみると、両者は兄弟と言ってもよいくらい近縁であることが分かりました。恐ろしいのは研究室内でのHvクロス・コンタミネーション(TNB菌にTAG菌が混入するなど)ですが、両者の生育特性が全く異なることからその恐れはなくなりました。となると、TNB-HvとTAG-Hvの近縁関係はどのように説明できるのでしょう?
  地球は「水の惑星」であると同時に「塩の惑星」でもあります。太陽系の惑星の中でも、地球は特に塩の多い惑星だそうです。塩は生物に必須ですが過剰でも困ります。地球生物における大問題の一つは塩との付き合い方でしょう。その点、塩分ほとんどゼロから飽和近くまで生育できるハロモナスは地球を代表する生物と言えるかもしれません。その中でもとりわけ、TAG熱水マウンドとTNB南極基地という極端に異なる環境から採取・培養されたハロモナス・バリアビリスは地球最強と呼ぶことができるかもしれません。現在、世界各地の岩塩を集め、そこからハロモナスを培養しているところです。岩塩はタイムカプセルのような役割があるので、地球史的な観点からもハロモナスの特異性を明らかにしていきたいと思っています

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