|
|
|
|
||||||||||||||||
|
||||||||||||||||
|
||||||||||||||||
![]() |
|||||||||||||||||
|
|||||||||||||||||
|
|
![]() 本来,サルボオやハイガイの仲間は,潮間帯や潮下帯の砂泥底の表層近くに埋在して生活する濾過食者(Filter feeder)である。しかし,タイ国南部のアンダマン海に面した海草藻場では,サルボオの1種がウミショウブやリュウキュウスガモなどの海草に,あるいはハボウキガイに付着して生息していた。つまり,海草を付着基質(足場)として利用することで,海草藻場にまで分布を広げることに成功したといえる。波に揺れ,いずれは枯れてしまう不安定な足場ではあるが,餌条件が周囲よりも良いものと考えられる。ところで,海草の成長点は葉の基部にある。そのため,葉に付着したサルボオは,葉の成長とともに先端に移動させられ,ついには脱落してしまう。これに対処するため,サルボオは,葉の基部,葉鞘の辺りをグルグル回るように少しずつ付着位置を変えることで,定位しているのではないかと,考えている。一方,サルボオの殻の上には,フジツボを始め,多種類の固着性生物が棲みついていた。なかでもフジツボが優占しており,多い場合には20個を超える数がサルボオ1個体の殻に固着していた。フジツボは生活するのに,岩礁など,硬い固着基盤を必要とする。そのため,砂地やそこに成立する海草藻場は,普通フジツボの分布域とはならない。ところが,サルボオが海草上に棲み込んだことによって,その殻がフジツボに足場を提供することになったのである。こうして,何種類かの固着性生物が,まんまと海草藻場を生息空間として利用できるようになった。生息空間をめぐるこうした関係を,棲み込み連鎖と呼ぶ。砂地に,海草が第1次棲み込み者として入り込み,サルボオがその葉に付着することで(第2次棲み込み者),殻上が第3次棲み込み者の固着基盤となったのである。サルボオ以外にも,直接葉に付着したり,這い回ったり,葉に潜り込んだりする第2次棲み込み者も存在するし,これらを捕食するために訪れる魚やカニもいる。こうして,生物自身が提供した生息空間を他の生物が利用することで,海草藻場の多種共存が維持されているのである。 生物による棲み場所の形成作用には,上のような『提供Provision』の他に,『創出Creation』,『条件づけConditioning』という過程が考えられている。こうした過程を経て,棲み場所の構造化が行なわれ,新たな棲み場所の追加と既存の棲み場所の拡大が,さらなる生物の棲み込みを可能にする。逆に,この過程で排除されたり,棲み込めなくなる生物もいるに違いない。でも,生物が関わらない1次空間を出発点として考えてみた時,棲み込み連鎖は,多種共存を維持し,促進する役割を果たしてきたに違いない。 個々の生物は生き長らえていくのに衣食住を必要とする。『食』は食べ物や餌であり,『住』は住環境すなわち棲息場所であり,獲物を探したり,異性と出会うために必要な空間的広がりである。『衣』は,身の安全を確保するための物や構造と考えてはどうだろうか。これには鳥の巣や巣材,底生動物の巣穴,幼魚の隠れ家,ヒトの衣類などが該当する。故に,個々の生物の集合した共存システムとしての群集は,食物連鎖を縦糸,棲み込み連鎖を横糸に,衣の確保を交えながら織り上げられた関係の総体ということができる。生態学は,この糸を解きほぐしていく学問に外ならない。 |
|
|