 |
チョウのハネの周りの辺縁鱗と感覚毛
チョウやガのハネの特徴の(1つ)は、その周囲(の大部分)に「辺縁鱗」と呼ばれる、特殊な細長い鱗粉を多数付着させていることです。この写真は、モンシロチョウのハネに「フォイルゲン染色」を施し(DNAが赤く染まる。)、そのハネの辺縁部を「微分干渉顕微鏡」で撮影したものです。左の赤みがかった部分がハネの「本体」で、右に多数見られる細長い帯状のものが、辺縁鱗です。それに混じって真ん中に1本見えるのは「感覚毛」で、これは「辺縁鱗」よりずっと細くて短く、ここに見えるものの長さは約0.07 ミリメートルです。この「感覚毛」の特徴については、後で詳しく説明します。
「辺縁鱗」はサナギの中でつくられていきますが、辺縁鱗ができる場所はサナギができた直後には細胞がぎっしり詰まっています。その後、そこは細胞死を起こしてなくなってしまい、そうしてできた「空所」に「辺縁鱗」が伸長し、このようなハネがつくられた、というわけです。言い替えれば、ここで起こる細胞死は、「辺縁鱗をもつハネ」をつくるための必要条件の1つであると言えます。今までの研究でこのようなことが明らかになりましたが、それでは「辺縁鱗」の役割は何でしょうか?役割の1つを解くカギが、先に述べた「感覚毛」なのです。
「感覚毛」は、実は普通のハネでは顕微鏡でも見ることができません。「感覚毛」は多数の「辺縁鱗」の中に、完全に埋もれて分布しています。この写真のハネは、「辺縁鱗」をある程度除去して、1本の「感覚毛」が「透けて」見えるようにしたものです。
ところで昆虫の感覚毛は、味を感じるもの、においを感じるもの、機械的刺激を感じるものなど、感じられる刺激の違いによって幾種類かに分類されています。 最近、横張文男博士(福岡大)との共同研究で、ここに見られる「感覚毛」が機械的刺激を感じるものであることがわかりました。チョウが飛んでいるときには、気流によって「辺縁鱗」がふるえます。「辺縁鱗」の動きによって、その中に埋もれた「感 覚毛」も動かされ、そして「感覚毛」の基部にある感覚性神経細胞に力が加わり、気流に対する知覚が生じる、という段階的な機構が働いているのでないかと考えています。
チョウが飛んでいるときには、このようにしてハネの辺縁部の気流、あるいは風圧を感知しながら、微妙に飛び方を調整しているのでないでしょうか。多数の「辺縁鱗」の中に「感覚毛」を埋めておくシステムの利点を具体的に調べていくこと等、まだこれから明らかにせねばならぬことがたくさんありますが、少なくとも、チョウがハネの辺縁部の空気の状態を知るために、「辺縁鱗」が一役買っていることは間違いなさそうです。このように、チョウのハネにはすみずみまで「神経」がゆきとどいています。 |