JT生命誌研究館は、大阪大学大学院理学研究科の連携講座(講座名:生命誌学)として大学院生を受け入れています。この制度の開始は1996年4月。以来、毎年数名が研究館を希望します。

これから研究者になろうという意欲に満ちた学生たちが加わることで、受け入れる側も若返り、研究館の活性化に役立っています。一方、学生も、大学とは一味違う研究館での生活を有意義なものと受け止めてくれています。2000年3月までに博士課程の研究を終了し、無事博士号を取得した3人を紹介しましょう。

江原恵(めぐみ)さんは、96年4月、奈良女子大学理学部で修士課程を終えてから、大濱研究室に入りました。修士は藻類の形態観察でしたが、葉緑体やミトコンドリアなどの細胞内小器官のDNA解析技術を身につけ、藻類の分類と遺伝暗号の進化(遺伝暗号が例外的に変化するとき一定の方向性をもって変化することなどを発見)に関して多くの業績をあげ、99年3月には生命誌学講座として初めて博士号を取得。藻を飼うのが得意で、生物の扱いとDNA分析の両方をこなす能力を身につけたのは今後の強い武器になるでしょう。毎年全国の博士号取得者の中から30名に与えられる「井上研究奨励賞」を受賞しました。

2000年3月に学位を取得したのは、渡辺一生(かずお)さんと三石祥子(みついしさちこ)さん。

渡辺さんは、名古屋大学の理学部で修士課程を終えてから、江原さんと同じ大濱研究室で藻類のミトコンドリアゲノムの遺伝子に見られるイントロン(遺伝子の中にあり、アミノ酸の情報をもたないDNAの部分)が、「種を超えて動く」証拠を見つけました。さらに、ミトコンドリアだけでなく、核の遺伝子のイントロンも自己増殖性のRNAが入り込んでできた、という考えを支持する事実を、クラミドモナスで発見。「イントロンの起源」という、分子生物学の数十年来の大問題に迫る、大きな成果をあげたのです。

三石さんは、早稲田大学人間科学部の修士課程を終えてから生命誌学講座に進学。出身は数学で「科学と社会のコミュニケーション」をテーマに、研究館のSICP(Science Communication and Production)部門に属しました。博士論文は、「新しい科学伝達法の研究一サイエンティストライブラリーの制作と評価を通して」。本誌通巻20号でも紹介しましたが、ホームページで公開中のデータベース「サイエンティストライブラリー」を制作し、その評価をアンケートで調べました。

科学者の人間的側面を通して科学を伝えることで、これまでにないやり方で専門外に科学を伝えることができること、そして、そうした「科学者」についての情報は、専門が異なる科学者間のコミュニケーションにも役立つことを明らかにしたのが、三石さんの研究の成果です。だれもやったことのない研究を、試行錯誤の連続の中からなんとか前に進め、4年かけてようやく論文にまとめることができました。将来、同じようなライブラリーを作ろうとする人に対しての大きな指針ができたといえるでしょう。

江原さんは、現在、神戸大学・川井浩史教授の研究室で、ポスドク研究員として藻類の研究を続けています。渡辺さんは、2000年4月からアメリカのテキサス大学にポスドク研究員として留学、三石さんは東京で「サイエンスコミュニケーション」の仕事に就きました。

3人とも口をそろえて「BRHで研究ができてよかった」というコメント。もちろん、それぞれに大変なことはたくさんあったはずですが、研究館での経験を生かして活躍してくれるに違いありません。

(本誌・加藤和人)