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(中村)
歴史を振り返ると20世紀には今までと全く違うことが二つありました。一つは宇宙から地球を見たこと、もう一つは、メディアの拡大によって地球上のすべての人の暮らしが情報としてはわかるようになったこと。日本で暮らしていて、アジアやアフリカで生活を営む人の情報が、インターネットの中に流れています。外のことを何も知らずに自分の生まれた村の中だけで生きていた頃と、同じ生き方はできません。熱帯雨林の出来事を人ごとと捉えてしまったら、環境問題に取り組むことはできません。ここからは我田引水ですが、私たちが暮らす地球は、38億年の長い時間をかけて、生きものたちが作ってきた地球なのですから、生きものを基本に考えないと、地球の限られた空間の中で上手に生きることはできないだろうと思うのです。これまでお話してきたことは昔に戻れという意味ではないのですよね。
(伊東)
今、僕らが置かれている状況を地球全体の中で考えれば、自ずとやるべき事は見えてきますね。
(中村)
街づくりも暮らし方も、全体を見ながら挑戦できる時代が21世紀のはずです。しかし聞こえてくる情報は、四角い建物をどんどん高く建てるとか、気に入らない相手がいたら戦争をして爆弾を落とすとか、まだまだ20世紀型ですね。人類は戦争のない時代がなかったくらい戦争を繰り返してきましたが、今は地球のどこかに爆弾を落とせば自分の暮らす所にも悪い影響が起こるのはわかっているのだから、もう止めるべきだと思うのです。地球上のすべてはつながっているのですから。私はよく、もう戦争などしている暇がないのが今なのだと言うのですけれど。
(伊東)
本当にそうです。
(中村)
 伊東さんの建築は、そういう時代の建築のイメージを具体的に与えてくれます。建築は人工物ですが、それぞれの土地に自ずと生まれてきたような風景が必要でしょう。生命誌の「生る」はそれを求めているのですが、そのイメージと重なります。
(伊東)
ありがとうございます。中村さんが常々言っておられる、人間は自然の部分である、というお考えは、建築にとってもまったく同じです。建築も自然の部分だと考えると、途端に建築は変わるはずです。
(中村)
自然の一部として、でもつくられる方の個性や思いを生かして、建物をつくることはできるはず。周囲と違うものをつくるのは、実は新しいことではありませんね。
(伊東)
人間が自然の内側にいると思うことが大切で、外側に立っていると思うとすべてが違ってしまいます。
(中村)
境界線の向こうに自然があって、その資源を使って何かするのではなく、自然の中で何かが起こったらそれは自分に関わることと捉え、どうすればうまくやっていけるかを考える感覚を皆が持たなくては。
(伊東)
建築を考える時、まさしくそのことだけ考えればいいと思っています。本当に自分がその自然の中にいて、その一部であることを実感できるかどうかです。
(中村)
まさに自然の一部のような〈ぐりんぐりん〉をおつくりになったのに、柵を作れと言う方は自然と人間を別のものと見る姿勢から離れられないのかもしれませんね。ところで、伊東さんの建築は、他の建築家の方からどう思われていらっしゃるのでしょう。
(伊東)
何か変なことやってると思われています(笑)。日本よりもアジアやヨーロッパの国で理解されることが多いですね。台中のオペラハウスを日本で建てようとしたら、とんでもないと言われてしまうでしょう。
(中村)
以前、ASEAN諸国でのODA成果を見る仕事で、タイの小学校を訪れた時、ODAが作ったガラス張りの体育館は出入り口が閉ざされて空調が入っているのですがそれがまるで動かない。これは大変だと思いながら、校舎を見学に行ったら、廊下が外に向かって全部開いていて、窓もまったくありません。そこでは子供が楽しそうに遊んでいて、ああ、これがこの風土に合った建物なのだとわかりました。室内と屋外がつながっている。そういう感覚は、アジアの人同士の中で私たちが共通して持っているものなのだと思いました。
(伊東)
建築をやっていると、この頃は水没していく島の上にだけ僕らがやることが残されていて、どんどん水位が上がってきている気がします。ヨーロッパには公共の仕事が成り立つ土壌がありましたが、アメリカナイズされていくに従い経済が優先されて、公共の意識が失われて行くのではないか危惧しています。
(中村)
でも、経済だって皆が楽しく暮らせるためにあるものですよね。この頃は声高に皆さん経済とおっしゃいますが、それで楽しくなっているようには思えませんし、日本ももう少し以前の方が楽しかった気がします。「生きる」を基本にして、そこから考えていきたいと思っているのですけれど、なかなか・・・
(伊東)
本当は皆、気が付いているのじゃないかな。
(中村)
幸せということを考えたい。私は、多摩美術大学の洞窟のような図書館でゆったり本を読めたら幸せだろうなと思うのです。
(伊東)
大学の先生もそう仰ってくださいます。ただ建物が竣工すると、初めて良かったと気付いてくださいますね(笑)。
(中村)
台中のオペラハウスも完成が楽しみですね。図面を見ているだけなので、この曲面をどう歩いたらいいのかなあ、などと考えてしまいますけれど。
(伊東)
床面を決めるのは、水面をどこに設定するかを考えるのと同じです。水かさを少し増やすと水平部分が多くなり、少し下げると曲面が多くなります。どの辺りでおさめるか、そこを考えるだけでも面白くて。
(中村)
試行錯誤されて、一番落ち着くところをお探しになるんですね。
(伊東)
まずは地形を作って、そこをならしていくような作業です。巣を作るのと同じように自然のなかに少し手を加えた場所をつくる作業をくり返しているのです。
(中村)
巣づくり。とても生きもの風ですね。でき上がったら行ってみたいな。
(伊東)
是非見にいらして下さい。
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