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(中村)
東京は暮らしにくくなりましたね。私は東京生れ、東京育ちですから、本来この街が好きなのですが、バブルとやら以来、人間が主体でなく、こけおどしのような建物の街になって、土、水、緑、風、生きもの、人というものは消えている。当然、音もとんでもない状況。
(大橋)
私は、ちょっと活力が落ちるとすぐバリ島に行きます。それでかろうじて復活するんです。我々が生み出す知恵の健全さを支える軸足をどこに置くかは、非常に大事でしょう。研究成果を出せば世論に影響を与えますから、自らの感性を磨き、価値観、宇宙像を支える軸足がきちんとしていなければならない。感覚的な軸足は、いくら頭で考えたって作れません。
(中村)
とくに生物学の場合、頭だけでは仕事はできませんね。ところが科学という名が付いた途端にそう認めてはもらえない。そこが一番問題です。誰が、どのような思いでやったかという人間の生身の部分がとても大切なのに。
(大橋)
透明人間でなく、実際にやっている人間の存在が出なければなりませんね。
(中村)
データの客観性は必要ですが、研究する人の感覚は客観性で語れない。社会の中には、科学への誤解があって、すべて透明人間のような人がやったことになる。
(大橋)
今、科学がますます魔法の杖になっているから危険です。
(中村)
とくに生物学がそうなってますね。
(大橋)
中学や高校の教育の現場で、先生方にそういう自覚があれば、徐々によくなるとは思うのですが。
(中村)
私は人間大好きで、人間を信じていますけれど、でも環境って恐いものでしょう。今日は音環境から始まって、バリ島へ、さらには複雑な生態系のもつ意味というところへ展開してきましたが、まさにこの複雑さを感じとることが大切ですね。科学者も教育者も、生活者も。でも日常の中に自然がなく、複雑さの感覚が持てないまま高層マンションで育つ子が増えているから、あらゆることが単調に砂漠的になる。大人になると、もうそれを身につけられないのではないかと。
(大橋)
自然がないのは怖いですね。子どもの脳が発達するとくに大切な時期が情報的には砂漠の中ですから、取り返しがつかない。
(中村)
ヒトとして発生し、誕生し、人間として育っていく時に、クリティカルな時期がありますからね。そこを変なふうに通り過ぎたら本当に取り返しがつきませんね。
(大橋)
それが問題だという認識が早く社会に広がることが大切だと思います。それには方法は一つしかない。合理的科学的な説明です。誰もが納得して、これは本当にまずい状況だと思えるようにするしかない。その点で非常に大事なのが、研究の現場と社会との関わり、橋渡しです。
(中村)
大橋さんもそうおっしゃっているし、私もそう思っているのだけれども、社会の中では、科学から出たことが、何か別の目的の材料にされてしまう。しかも、それを使ってすべてを説明しようとする。科学は、すべてを説明するものだという大きな誤解があるのです。
(大橋)
とんでもない誤解ですよね。
(中村)
この二つの誤解で科学の中心はいま動いているんです。 |