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(中田)
第一言語、つまり母国語の理解の仕方が、その後に習得する言語の理解に影響を与えています。fMRIでバイリンガルの人の脳の使われ方を見たら、第一言語で出来上がった機能の拡張で第二言語が処理されていることがわかったんです(図6)。脳のどこをどう使うかは、情報の内容ではなく、その人の育った環境によるんです。
(中村)
本来等方性の中で出来上がっていく、脳の可塑性ですね。
(中田)
脳は自分でコホネンのネットを組み上げて行くとき、音情報が脳の中に入ってくれば、情報の内容がわからなくても一応の情報処理システムを作り上げます。幼い時から耳が聞こえない人たちが文字を読むときの脳をfMRIで見ると、言語野はまったく使われずに記号を処理する頭頂葉が使われています。でも彼らは僕らと同じように言葉がわかる。
(中村)
私たちにはわからないわかり方をしているんですね。でもそれって、言葉の始まりは耳だという説に矛盾しませんか?
(中田)
もしも人間が、言語による教育を行わない動物だったら、文字情報だけで意味がわかるということはなかったでしょう。でも、僕らは言語による教育を受けています。情報の扱い方は犬と人間とで同じですが、文字情報というものは、人間が他の人間から訓練されて初めて獲得するもの。もともとの言語能力は音から自己形成されていますが、文字情報の扱い方を言語情報に重ねる過程が人類の歴史の新しいところで出来上がってきたんだと思います。
(中村)
生きものの構造としては、耳から出来上がってくるけれど、文化というか、人間としての文字情報の訓練の過程はさらに脳内に組み立てられるということ。
(中田)
そう。前頭葉の柔軟性が訓練を可能としている。
(中村)
なるほど。
(中田)
だからこそチンパンジーも教えればある程度の言語は学習できますね。もう一つヒトで画期的なことは、脳の機能が左右に分かれたことですね。チンパンジーまでは脳機能は完璧に左右対称ですが、左右の脳が同じ事をしているというのはかなり無駄でしょう。
(中村)
左右の脳に機能が分かれたことで単純に言えば倍の可能性ができたとも言えるわけね。
(中田)
舌を使って言語を発する時には、本来生命を維持するための延髄に近いところの筋肉を使います。万一、脳の一方の半球に傷害を負った時にもその筋肉を動かすことができるように、左右の脳が同じようにその機能を持っています。しかし、それでは言語機能のような詳細な運動のコントロールができない。そこで、言語に関しては、一方の脳機能を押さえ込む機能を作ったのでしょう。
(中村)
なるほど。
(中田)
生まれたばかりの赤ん坊はミラーモーションと言って、両腕が鏡のように一緒に動き、片手を使うことができません。脳梁の発達と共に、片側を抑制する回路が出来上がって、利き腕が生まれる。利き腕の使用は脳の高次機能です。
(中村)
なるほど。そうですね。
(中田)
二足歩行にしても、非線形制御を必要とする、ひざをロックして足を一本のようにして歩くことはサルにはできません。人間が自己歩行ができないような未熟なままで生まれてくる理由も、言語をつくりだしていく過程で、運動系に脳の左右の半球を制御する装置を必要としたためだと思います。つまり、生まれてからでないと言語のトレーニングができず、従って運動系の成熟も完成もできない。
(中村)
 言語というものを、非線形歩行にまでつなげて考えるって面白い。普通なら言語は言語だけで考えてしまいがちですけどね。ここの話は、改めてよく考えてみたいです。生命誌にとって大事なことですから。
(中田)
右利きか左利きかが遺伝子で決まっているのか、ポリアの壺なのか、解き明かしたいですね。
(中村)
fMRIに始まり、さまざまな技術開発は「知りたい」という知的欲求から来てたんだけれど、医療で大いに活躍している。
(中田)
宇宙開発で地球から月に行くために発明した様々な技術が実社会に転用されているように、言語を知るための技術開発も医療の現場に応用していきたいと思っています。 |