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Special Story

刺胞動物を探る
サンゴの一風変わった進化

お腹の中はクローンでいっぱい
-ウメボシイソギンチャクの無性生殖:柳 研介

ウメボシイソギンチャク(Actinia equina)は潮間帯に普通に見られ、干上がった磯で縮こまった姿はまさにウメボシそっくりである。じつはこのウメボシイソギンチャク、雄でも雌でも胃腔内で子供を保育するという一風変わった習性をもつ。このイソギンチャクを採集して水槽で飼育すれば、必ずといってよいほど口(肛門?)からたくさんの小さな子供を吐き出すようすを見ることができる。

ウメボシイソギンチャクの子供の保育は古くから知られており、最近の遺伝学的解析にとって、子供は親のクローンである可能性が高いことがわかった。しかし、子供がクローンなら、親の胃腔内ではいったいどんな無性生殖の方法がとられているのか。じつはそのことについてはまだよくわかっていなかった。

そこで私は、500個体にのぼるウメボシイソギンチャクを、すべて組織切片(薄切り標本)にして観察してみた。すると、同じ個体の中にも様々な発達段階の子供が飼育されており、さらに、これまで見つかっていなかった生まれたばかりの子供(ひとかたまりの胚様組織)があることがわかった。卵から胚様組織にいたる中間段階は一切観察されず、胚様組織はすべて突如その形で現れる。これはどういうことだろう。未受精卵から個体の発生が起こる単為発生だろうか。子供が雄の体内にも雌の体内にもいること、年に一度、繁殖期の時期だけしか成熟した生殖細胞は見られないことから、どうもそうとは考えにくい。どうやらこの胚様組織、体細胞由来と考えるほかない。

無性生殖では分裂や出芽など、有性生殖による胚発生とは基本的に異なったやり方で新しい個体ができるのが一般的である。しかし、このウメボシイソギンチャク、雄も雌も体細胞を寄せ集めて受精卵のようなものを作り、それが通常の受精卵の発生過程と同じ道のりを経て新しい個体となる、という特殊な無性生殖を行っているらしい。詳しいメカニズムについては調べなければならないが、今後、このような生殖方法が、研究の進んでいない他の体内保育を行う他のイソギンチャクで観察されるか調べようと思っている。

①ウメボシイソギンチャク。潮間帯の比較的上部に生息する。
②子供を吐き出したところ。
③成体の組織切片。小さな胚様の塊が3つ見える。
④塊は通常の胚発生と同じように陥入し始めている。
(写真=楚山勇、~柳研介)

(やなぎ・けんすけ/東京水産大学大学院博士課程後期在籍)

※所属などはすべて季刊「生命誌」掲載当時の情報です。

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