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Special Story

光合成 ─ 生きものが作ってきた地球環境

光合成から21世紀を考える:中村桂子

写真=山口進

21世紀は生命科学の時代であると言われている。これは、20世紀が物理学の時代であるという認識に対応して言われていることのようだ。20世紀の物理学は、「生命」に対して二つのことを打ち出した。一つは、新しい技術を生み出して人間と自然の関係を大きく変えたことであり、もう一つは、生命現象の科学的理解を進めたことだ。1953年のDNAの二重らせん構造の発見をバネに、ヒトゲノムの解読まで進んだ生命科学の進歩はよく知られている。この延長上に遺伝子解析を進め、テーラーメイドの医療を手にするという意味での生命科学は、じつは物理学の手の内にある。

それは、生きものの構造と機能の理解が生物の理解であるという機械論的な思考の上にあるからだ。21世紀は生命の時代であるという場合には、生物を機械以上のものとして、そのあるがままを捉える生命論的思考が重要になるはずだ。学問も技術も暮らし方も、生命を基本に考えるわけだ。生命誌はそれを求めての知の構築である。

そこで新しい時代を考える一つの切り口として光合成を取り上げた。

光合成は誰もが知っている現象だが、緻密に組み上げられた仕組みで支えられている。しかもそれは、生物にとってのもう一つの大事な反応である呼吸と表裏一体の関係にある。では、進化の過程でそれらが深く関わり合いながら生まれてきたかというと、必ずしもそうではないらしいとわかってきたのだから、ことは簡単ではない。

今回、光合成の全体像を調べてみて、これまでの常識が崩れた。初期の光合成では電子供与体としてイオウ化合物などを使っており、水を用いて、廃棄物として酸素を出す今の形になるまでには、複雑な変化が必要だった。そこで呼吸は、光合成で酸素が生じる前からあったらしいのだ。エネルギーの獲得と利用は、生命活動の基本なので、光合成と呼吸のそれぞれを巧みに進めた結果、とてもよく似た反応に落ちついたのだろう。

光合成と呼吸をみる時気づくことは、生物が環境の影響を受けるものであると同時に、環境を変えていくものでもあるという関係だ。自然という言葉は、時にあまり変わらない保守的なもののようなイメージを引き起こすが、そうではない。ダイナミズムこそ自然の本質であり、そこから生まれるこれまでにない新しいものやできごとが大事なのだ。

光合成に匹敵する太陽エネルギーの利用の開発と、生態系の一員としての自覚とを両立させていくことが、生命の時代の一つの挑戦だと実感する。

(なかむら・けいこ/JT生命誌研究館副館長 )

※所属などはすべて季刊「生命誌」掲載当時の情報です。

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