中村桂子のちょっと一言

館長の中村桂子がその時思うことを書き込みます。月二回のペースで、1995年5月から更新を続けています。

2015年4月15日

子どもは鋭い

中村桂子

お父さん、お母さんと子どもたちが一緒になって話を聞きたいと言われ、絵本「いのちのひろがり」を読みながら話をすることを試みました。あなたの始まりのところでは、子宮の中でお母さんから栄養分を受けとるのに必要な胎盤をつくる時にはお父さんの遺伝子がはたらくということなど、さまざまな自然の妙をつけ加えながら読んでいきました。小さな子どもたちも熱心に聞いてくれて、楽しい時間でした。

話し終わるとすぐ、一番前にいた今年一年生になるという男の子が立ち上って質問です。「最初にできた眼はぼくと同じように見えたの?」。カンブリア紀になると眼ができてきて、離れたところにある餌も見えるようになったから積極的に生きられるようになったと話し、そのページには、アノマロカリスのちょっととび出した眼が描いてあります。

さてこの眼はどんな風に見えていたのかしら。真剣な男の子と向き合ってアノマロカリスになったつもりになってみました。現存の生きものですと、レンズの構造や視細胞のはたらきを調べて、トンボの見ている世界、トリの見ている世界を疑似体験できます。でも、いかんせん相手は化石です。最初は、レンズも光を感じる細胞も、今私たちが持っている眼ほど洗練されたものではなかったでしょう。色もあまりなくボンヤリ見えていたのだと思います。度の強い近眼だった子どもの頃を思い出しながら考えました。

科学を伝えると言うと、必ず、誰を対象にするのですかと聞かれます。大人ですか、子どもですか、それとも大学生というように・・・その時お答えするのが「関心を持って下さる方」です。何の関心もない人を無理矢理巻きこむことに力を注ぐのでなく、ちょっとのぞいてみようという気持の人が、面白いじゃないのと思って下さる場をつくりたいと思っています。今回の体験でもわかるように、子どもとか大人とかいう区別はあまり意味がありません。

みなさんからのご意見生命誌の広場より

アノマロカリスと三葉虫の眼

投稿日:2015.04.15 / 名前:足立隼

少し気になったので調べてみますと、Nature (2011) 480: 237.にアノマロカリスの眼の保存状態の良い化石の論文が出ていました。この論文に依りますと、色を認知出来ていたかどうかは分子を見ないと流石に分かりませんが、複眼の中の個眼数は16700ほどでトンボなど現存の節足動物にも匹敵するほど多く、個眼同士の角度は<4.4°で眼の解像度はかなり高かったと予想されるそうです。ただ、その角度と眼のレンズ径~95µmからは眼の感度はそれ程でもなく、明るい海中で昼行性の生活をしていたという推測と一致するそうです。同時期の三葉虫は眼のレンズ径は60-150µmほどで眼の感度はこちらの方が寧ろ高そうなのですが、個眼の数は3000ほどで眼の解像度はだいぶ低そうということから、アノマロカリスはプレデターとしてのニッチに素早く適応出来ていたそうです。勿論形態学的な形質だけでなく分子まで調べないと実際の所は分かりませんが、これらの生き物は進化のモデルとしては面白そうです。子供の発想とは言っても同じ問いがNatureで扱われるホットな話題な訳ですから、子供か大人の発想という区別はほとんど意味が無く、発想自体のセンスが問われるのだと思います。生命誌に関心を持たれる方は誰でも同じように歓迎されますね。

語り合いの続きは「生命誌の広場」へ

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