論文

Masasuke Ryuda, Delphine Calas-List, Ayumi Yamada, Frédéric Marion-Poll,Hiroshi Yoshikawa, Teiichi Tanimura, and Katsuhisa Ozaki(2013)

Gustatory sensing mechanism coding for multiple oviposition stimulants in the swallowtail butterfly, Papilio xuthus

Journal of Neuroscience 33 (3) 914-924

解説

 アゲハチョウは数種類のミカン科植物の葉を食べる狭食性昆虫であるため、膨大な植物種の中から寄主植物(ミカン科植物)を正確に選ぶ必要がある。寄主植物の選択は雌親の産卵時に行われており、ドラミング行動によって前肢ふ節に存在する感覚子で寄主植物の葉に含まれる化合物(味物質)認識した後、産卵する。アゲハの産卵を誘導する植物由来の化合物を産卵刺激物質と呼ぶ。アゲハの産卵刺激物質は、食草であるウンシュウミカン葉から10種類見つかっており、それぞれ単一では効果がなく混合して初めて産卵を誘導する。しかし、複数の産卵刺激物質がアゲハによってどのように認識され、産卵行動を誘起するのか?そのメカニズムは未解明であった。
 本研究は、ナミアゲハふ節感覚子の産卵刺激物質に対する電気生理応答を解析した結果、感覚子内の3種類の味細胞が産卵刺激物質に対して特異的に応答していること、さらに、その3種類の産卵刺激物質を応答する味細胞が同時に興奮(神経発火)することが産卵行動誘発に必要であることを産卵行動実験により明らかにした。つまり、ナミアゲハは複数の化学物質情報を、3つの情報(神経シグナル)にまとめ、それらの情報を脳で同時に受け取ったときにだけ産卵するといった行動調節メカニズムを持つと考えられる。
 本研究は複数の産卵刺激物質によって制御されるアゲハチョウ科昆虫の寄主植物選択メカニズムを示すとともに、これまでの昆虫の味覚研究では見つかっていない、味覚を介した行動調節メカニズムを提示している。

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