論文

Harata A, Hirakawa M, Sakuma T, Yamamoto T, Hashimoto C. (2018)

Nucleotide receptor P2RY4 is required for head formation via induction and maintenance of head organizer in Xenopus laevis

Develop. Growth Differ. DOI:doi.org/10.1111/dgd.12563

解説

 脊椎動物を定義づける特徴の一つとして、無脊椎動物にはない複雑な頭部構造を持つとことが挙げられます。その頭部構造は、進化の過程で特殊な細胞集団、すなわち神経堤細胞やプラコードを獲得してきたことによって複雑化してきたといわれています。私たちは、脊椎動物の頭部構造の獲得の謎に迫るヒントの一つとして、脊椎動物にのみ存在し、且つ、将来頭部となる領域に限局して存在するP2Y受容体の役割に注目してきました。P2Y受容体とは、Gタンパク質共役型受容体の一つであり、細胞外に放出されたヌクレオチドによって活性化され細胞内の環境を調節しています。ヒトでは8種類、アフリカツメガエルでは10種類の遺伝子が見つかっています。これまで、私たちはアフリカツメガエル胚を用いた研究により、P2Y受容体の中でも特に近縁であるp2ry1p2ry11の頭部領域における発現について遺伝子の機能阻害実験からそれぞれの遺伝子が頭部形成過程に重要であるということを明らかにしました。

 

今回私たちは、脊椎動物の祖先的な頭部の形態を持つヤツメウナギにも存在することが明らかとなったP2RY4受容体の役割について調べました。p2ry4は、まず初めに、頭部構造の最初のステップである「神経誘導」が行われる領域として重要なオーガナイザー領域 (図1, d, 赤) や予定神経外胚葉 (図1, d, 青) で強い発現が確認されました (図1, b, c)。神経胚期になると神経堤細胞やプラコードで強い局在が見られ (図1, e)、神経胚期以降では中枢神経系での広い発現が確認でき、頭部形成に重要な時期や領域で確認されました (図1, f, g, h)。遺伝子の機能破壊を行うと頭部構造の萎縮が見られた為、頭部形成過程のどの段階でp2ry4が必要であるか調べると、神経誘導が進行する原腸胚期で頭部オーガナイザー遺伝子の発現に特異的に関与していることが示されました(図2, b, d)。p2ry4の発現が頭部オーガナイザー領域の形成を介して、頭部形成に重要であるということが今回の研究結果より明らかとなりました(図3)。

P2ry4は神経堤領域に強く発現が認められますが、機能破壊実験では神経堤が形成されるよりも早い段階で頭部形成に異常が認められた事から、p2ry4が神経堤細胞においてどのように働いているのかについては明らかとなりませんでした。しかし、進化の過程で脊椎動物だけにその存在が認められるp2ry遺伝子ファミリーが、脊椎動物を定義するともいわれる神経堤細胞に強く発現がある事や、頭部形成過程に関与している事と考えあわせると、p2ry遺伝子の獲得と頭部構造の獲得の間に何か重要な意味があるようにも見えてきます。p2ry4の予定神経外胚葉における発現や神経堤細胞、プラコードにおける局在ついても詳細に調べることで、発生過程におけるp2ry4の異なる働きやP2Y受容体と脊椎動物の頭部形成、進化的な意義についても知ることができると期待しています。

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