分類学のなかでもとくにシダを扱う気になったのは、エドウィン・コープランド(フィリピン大学農学部の創設者)の影響だったかもしれない。彼は、カリフォルニアの乾燥地帯からミンダナオ島の湿潤地にやってきて植物の多様性に驚き、シダ植物を材料にして、生態的多様度の研究をした人である。コープランドが一貫して言っていることは、生物の体系を作るときに、しばしばわかりやすさや便利さによって類型化することが優先され、せっかくさまざまな生物を扱いながら、生物相互の間にあるナチュラルな系統関係を純粋に反映する体系になっていないということだった。種子植物の場合、花が非常に有効な指標になるので、類型的にまとまりやすい。それに対してシダ植物は生殖器官の形質が限られているため、どうしても栄養器官でシステムを論じることになる。類型化はしにくい反面、逆に、本当に自然な系統関係を念頭において追及するのが日常的になる、と論じた。
コープランドをもっとよく知りたいと思った私は、学部生のころから、コープランドの扱っていたコケシノブを勉強し始め、マスター論文にまとめた。植物はふつう、基本組織系と維管束系と表皮組織系の3つの組織系からなり、単純化が進んで2層の組織を作ることはあるが、コケシノブの葉のように細胞層1層までいくのは非常に特殊な飛躍があったと考えられた。しかもこの1層は、基本組織の性質も表皮組織の性質も合わせもっている。この謎を追いかけているうちに、シダとのつき合いがますます深まることになった。
もう一つのきっかけは、陸上植物がどういうふうに陸に上がってきたかということについての関心である。現生生物の多様性は30数億年の生命の歴史の反映であるから、現生のものとの対比から、何がどこまでいえるかを検証してみたいと思ったのである。陸上植物の起源の問題を考えるうえで、シダは絶好の材料である。 |
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単純化したコケシノブの葉の組織
a:葉の表面。白く見えるのは葉脈から維管束が退化した偽脈。
b:葉の断面。偽脈の部分は細胞が上下に並んでいるが、それ以外の葉肉部分は細胞1層であることがわかる。 |
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脈理の型から推定されるヒメシダ科植物の類縁関係
シダも高等植物も葉の模様(脈理)は、葉面積を拡大する方向に進化している。従来、ヒメシダ科植物は、ヒメシダ型遊離脈からホウシダ型網状脈を経て、アミシダ型網状脈に進化すると考えられていた。岩槻博士は若いころ、凹所の薄膜が葉緑のニカワ質と同じ細胞構造をもつことに着目し、この薄膜をもつものは、切れ込みの烈片の癒合によって複雑化したのだろうと考えた。その結果、アミシダ型はホシダ型とは別の道すじを通って進化したと推定した(図は1962年の論文より改変)。
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