その後も、北大、農林水産省養殖研究所を通じ、雌性発生のクローンづくりの技術を用いて魚の育種の研究を続けました。その中の一つは、3倍体にする技術の開発です。サクラマスを3倍体にすると、成熟しないので、生殖に使うべき栄養が成長に使われ、しかも産卵による死がないので、大きく、味のよい魚が簡単に手に入ります。一方、サケ・マスでは、卵のほうの染色体を壊して、精子の染色体から雄性発生させることに成功し、そこからオスだけの均一な集団をつくることも可能にしました。これは、ティラビアなどオスのほうが成長の速い魚の養殖に利用できます。
雄性発生を利用すると、自然界での絶滅の危機に瀕している種の保存も可能になります。保存しやすい精子だけ冷凍保存しておき、近縁種の卵を借りることによってその精子からオスもメスも発生させられますから。
このような新しい応用技術は、いつも自然そのものの観察と研究によって学びました。自然に手を加えることで、自然のより深い理解につながることにもなったと実感しています。自然の研究と人為的な研究を往き来しているなかで、さまざまな疑問がわいてきます。1セットの染色体ではなぜ発生が完成しないのか、交配によってどのようにして新しい種ができるのか。フナはどのように進化してきたのか。精子の不活性化と、減数分裂をしないという通常は起こり得ない二つのことがフナではなぜ同時に起きるのか…。解明したい疑問だらけです。
物心ついた頃から、自然界の生き物を身近なもの、仲間と感じてきました。ミクロの世界を顕微鏡で覗き、分子レベルの研究成果を知り、さらに、自然に手を加える研究に携わるようにあって、ますますその思いは強くなり、生命や生物について深く考えるようになりました。生殖一つとっても自然はあらゆることを試している。現存しているのはそのほんの一部でしょう。人為的試みは、みな自然がやってきたこと、やる可能性のあることの一部でしかないというのが実感です。私の研究はバイオテクノロジーと呼ばれ、画期的な技術だと称賛されたりしますが、たんに自然のもつ可能性を再現しているだけなのです。まだまだ自然から学ばなければならないことがたくさんあります。
手元には、いつもフナがいます。いろいろなことをフナから学んでいます。フナが私の教科書なのです。 |
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染色体操作による オス・メスの生み分け |
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雌性発生をおこさせるためには、精子の染色体を使わず、卵の染色体を倍数化して発生させる。このようにして生まれた子供はまったく同じ染色体を2本ずつもつ完全ホモ型のメスである。従って、次の世代の卵は、すべてが同じ染色体を受け取ることになるので、再び同じ操作をくり返すと、遺伝的に均一なクローンが生まれる。
雄性発生の場合は、反対に卵の染色体を壊し、精子の染色体だけを使う。X精子からできた子供はXXのメスになるが、Y精子からはYYという自然界にないオスができる。これらを交配させると、同じ遺伝子をもったオスのクローンができるのである。
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農林水産省養殖研究所で見学者に説明する小野里博士。全国の水産試験場や養殖業者の期待は大きい。東南アジアからも見学に来る。 |
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生殖技術を使った養殖に一般の関心は高い。1983年、染色体操作によるマスの雌雄産み分けに成功し、取材を受けたときのスナップ。 |
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