63年帰国、新しいラボの立ち上げです。私は、博士課程を修了し、出産。翌年学術振興会の奨励研究員として研究を再開、65年に助手となりました。
ちょうどこの時期、DNAの複製機構について逐次的合成という新たな情報が出され、いくつかの理論的問題が浮かび上がってきました。複製中の染色体がを放射性物質で標識すると、Y字型に二重鎖がほどけ、同一方向に複製が進むように見える。ところが、試験管内の実験では、DNAポリメラーゼは5’→3’方向にしかヌクレオチドの重合反応を行わないのです。DNAの二重鎖は、塩基の並ぶ方向が逆で、複製の方向も逆になるはずなのに、なせ同じ方向に進んでいけるのか。この謎の解明が、私たちの大きなテーマになりました。
3’→5’方向に反応を進める酵素が発見されていないだけなのかもしれないという説もありましたが、私たちは、巨視的には同じ方向に複製が進むように見えるが、小さいレベルで見ると、じつは3’→5’方向の鎖は逆向きに不連続な複製を小刻みに繰り返しており、それを繋いでいく形で、複製が進むのだと考えました。
そこで、細胞に放射性チミジンを取り込ませ、合成の方向を解析することにしました。でも複製は、細胞内で毎秒1000ヌクレオチドという猛スピードで進んでいます。そこで、低温にして反応スピードを下げ、標識時間を数秒という短い時間にするという作戦で、標識したチミジンがDNA分子のどの末端に取り込まれるかを見る実験をしたのです。その結果、1000〜2000塩基対の短いDNA鎖が検出できました。まず、小さいものを作ってそれを繋げるという不連続複製を示すものでした。
最初は、抽出の時に短くなったのではないかと疑われ、否定的な声が多かった。反論の理由はいくつかありました。不連続に複製されているとすると、常に新しい合成を始めなければなりませんが、DNAポリメラーゼでは開始させることができません。それなのに、開始のための先導配列(プライマー)が見つかっていない。さらに、新しくできた短鎖を一本に繋ぐための酵素も見つかってはいない。また、3’→5’への合成酵素がある可能性をは否定されていないなど、どれももっともなものです。
短鎖が本当に働いていることを証明するにはどうするか?枯草菌などほかのものでも、不連続複製の可能性を示す結果を得て、確信をもったので、67年、東京で開かれた国際生物化学会で発表し、さらに、ラーク博士(カンサス大学)に呼ばれて半年アメリカに滞在、その間ホッチキス博士(ロックフェラー研究所)の力添えで、『PNAS』(Proceedings of the National Academy of Science, U.S.A.)に論文を出し、世界に知られることになったのです。滞在中、嬉しい発見が出されました。DNA同士を繋ぐ酵素、DNAリガーゼが大腸菌やT4ファージで見つかったのです。新しくできた短鎖を繋ぐものとして予想していたものでしたので、さっそく標識実験を行なったところ、DNAリガーゼが働かない条件では長鎖の形成が抑えられて短鎖が蓄積し、働く条件では短鎖が連結してDNAの長い鎖が複製されたのです。やった!です。
68年、コールドスプリングハーバーのシンポジウムに招かれ、令治が発表、大きな評判を呼びました。メセルソン(ハーバード大学)が、複製フォークの分岐点にイチジクの葉を置いて「ここが謎だ」と言ったのを受けて、「今、それは明らかになった」と葉っぱをはがしてみせ、聴衆を沸かせたというエピソードを、私は日本にいて後で聞いたのですが、あの時の誇らしい気持ちこそ、研究者だから味わえるものです。私たちが新生短鎖と呼んだDNA断片は、その後、岡崎フラグメントと呼ばれ、定着しました。 |
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70年、内藤記念科学振興賞を受賞した令治博士と受賞式で。 |
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73年、国際生化学会で招待講演をした令治博士とストックホルム・ウプサラ大学で。アメリカ留学以来、2人で海外に行くことはほとんどなく、恒子博士は家を守った。 |
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74年、プライマーの仕事をしたときのチーム。 |
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