爬虫類では、受精に時点で性が遺伝的に決定されても、その後も不変とはいえない。孵卵の環境、とくに温度によって、雄になったり雌になったりする。温度に依存した性の決定という現象が初めて発見されたのはそれほど昔のことではなく、1966年、西アフリカに生息するトカゲ、レインボーアガマ(Agama agama)についてであった。つづいてヨーロッパの淡水カメ、ヨーロッパアマガメ(Emys orbicularis)や、地中海にすむギリシャリクガメ(Tetsudo graeca)でも、71年と72年に報告された。すべての爬虫類の性が温度に依存するわけではないが、今のところ、調べられたすべてのワニ類、多くのカメ類、一部のトカゲ類で、この現象が観察されている。しかし、ヘビ類では一例も観察されていない。
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| 爬虫類の性はどのように決まるか |
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現存の
種の数 |
研究データのまとめ |
| 温度に依存した性決定a |
性染色体の組み合わせによる性決定b |
| カメ類 |
244 |
47/56 |
12/130 |
| ワニ類 |
22 |
8/8 |
0/12 |
| ムカシトカゲ |
1 |
0/1 |
1/1 |
| ミミズトカゲ類 |
144 |
0/0 |
1/30 |
| トカゲ類 |
3751 |
17/26 |
123/751 |
| ヘビ類 |
2389 |
0/3 |
217/344 |
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| 表のデータは、多くの論文を調査してJanzenとPaukstisがまとめたもの(1991)。a)温度により性が決まる種の数/研究が行われた種の数、b)性染色体の組み合わせにより性が決まる種の数/研究が行われた種の数、となっている。aとbの研究は、ほとんどの場合、独立に行われているので、同じ種で両方の研究が行われているとは限らない。 |
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これらの動物の多く(とくにワニ類ではほとんどの場合)では、孵卵期間の中期の環境温度域の低いほうから、雄、雌、雄という、一見不思議なパターンで、生まれる個体の性が変化する。新大陸のカミツキガメ(Chelydra serpentina)の場合、20℃以上の温度域ではすべてが雌になり、20〜30℃ではすべてが雄になる。20℃あるいは30℃付近の境界温度では雌雄はほぼ1:1で生まれる。しかし、これはあくまで基本形で、トカゲの中には、低温度域で雌が生まれ、高温度域で雄が生まれる種もある。その反対に、ある種のカメでは、低温度域で雄、高温度域で雌となる。
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| グラフは、温度による性決定の様子を表している。多くの爬虫類がこのパターンを示す。 |
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温度の違いが、どのようにして性の違いにつながるのだろう。
ワニなどの受精卵を、雄が生まれるはずの温度で孵卵しても、雌性ホルモンであるエストロゲンを投与すると、胚は雌になってしまう。反対に、雌が生まれる温度でアンドロゲン(雄性ホルモン)を投与すると、胚は雄になる。ホルモンで、胚の性は完全に逆転するのだ。
そこで注目されるのが、アロマターゼという酵素だ。エストロゲンとアンドロゲンは、同じステロイドという化学物質で、アロマターゼはアンドロゲンをエストロゲンに変換する働きをもっている。この酵素の胚での活性を測ると、雄が生まれる温度では活性が低く、雌が生まれる温度では高いことがわかった。
このような結果や他の実験データを総合して、フランスのピオーたちは、次のような仮説を発表している。まず発生の初期に、遺伝的な性の型に関係なく、未分化な性腺でアンドロゲンが作られ始める。雌産生温度では、それに加えてアロマターゼの遺伝子が発現し、できたアロマターゼがアンドロゲンをエストロゲンに変換、それが未分化な性腺を卵巣へと発育させて、雌の個体ができる。反対に、雄産制生温度ではアロマターゼ活性化の遺伝子が働かず、アンドロゲンはそのまま働いて精巣ができ、雄の個体ができる。つまり、初めに述べた第2の段階に性ホルモンが関与しているという考え方だ。 この仮説が、温度感受性のすべての種にあてはまるかどうかはわからない。爬虫類といっても、温度によらず性が決まる種もたくさんあり、そこでは性染色体が重要な役割を果たすはずだが、それに関する研究もまだ゙不足している。しかしながら、温度による爬虫類の性決定は、環境と生物の相互作用という観点からも興味深く、これからの研究の発展が楽しみである。
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female |
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male |
| day6 |
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| day7 |
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| day8 |
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酵素の働きで雄性ホルモンが雌性ホルモンに変わる
孵卵6日目から8日目のニワトリの胚の生殖腺で、アロマターゼ遺伝子の発現をin situハイブリダイゼーションという方法で調べた。アロマターゼは、アンドロゲン(雄性ホルモン)エストロゲン(雌性ホルモン)に変換する働きを持っている。雄の性腺ではアロマターゼは発現していないが(写真右)、雌では次第に発現し(写真左)、その働きで雌性ホルモンが作られると考えられる。LとRは、左と右の性腺を示す。
(General&Comp.Endoc.,1996,102:233より) |
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