各研究室が発信する論文を一覧できます。
- DNAから進化を探るラボ(系統進化研究室ー蘇智慧)
- チョウが食草を見分けるしくみを探るラボ(昆虫食性進化研究室ー尾崎克久)
- ハエとクモ、そしてヒトの祖先を知ろうラボ(細胞・発生・進化研究室ー小田広樹)
- カエルとイモリのかたち作りを探るラボ(形態形成研究室ー橋本主税)

日本には南西諸島を中心に16種のイチジク属植物が生息しており、そのうちの3種が小笠原諸島の固有種である。イチジク属植物はイチジクコバチのみを花粉媒介者としており、両者の間に「1種対1種」という種特異性の高い共生関係が構築されている。島々に生息する植物とその送粉者との共生関係は崩れやすいと一般的に考えられている。しかし、南西諸島のイチジク属植物と送粉コバチとの間には、その「1種対1種」関係は厳密に維持されており、両者の間に同調的な系統分化も起きていたようである(Azuma et al. 2010)。では、さらに遠く離れている小笠原諸島のイチジク属植物とそのコバチとの関係はどうだろうか。従来、南西諸島に生息するイヌビワが小笠原諸島に渡って種分化し、小笠原固有種となったと考えられており、送粉コバチもイヌビワコバチ由来であると思われている。
本論文は小笠原イチジク属植物、イヌビワとその近縁種を含めた系統解析によって小笠原諸島のイチジク属植物とそのコバチの起源について調べてみた。植物の解析には、葉緑体DNAと核DNA(Aco1遺伝子、G3pdh遺伝子とITS領域)を用い、コバチの解析には28S rRNA遺伝子とミトコンドリアcytB遺伝子を使用した。その結果、葉緑体DNAの系統樹は小笠原イチジク属植物がイヌビワと近縁であることを示し、従来の考えを支持したが、一部の核DNAからは両者の姉妹関係が見られなかった。また、コバチの系統樹においても、小笠原イチジクコバチとイヌビワコバチとの姉妹関係は見られなかった。これらの結果から、小笠原イチジク属植物はイヌビワを母系とする雑種起源であることが明らかになり、小笠原イチジクコバチはイヌビワコバチに由来したものでなはないことが判明した。本研究の結果はイチジク属植物とイチジクコバチの「1種対1種」という厳密な共生系においても寄主転換が可能であることを示唆し、交雑による種分化の要因解明にもつながるものである。
- ※論文の要旨はこちらでご覧になれます。
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チョウが食草を見分けるしくみを探るラボの、アゲハチョウのメス成虫が幼虫が食べる植物を選択して産卵する行動を制御している味覚受容体の遺伝子を発見して機能を解明した論文が、Nature姉妹誌のオンライン科学雑誌「Nature Communications」 に掲載されました。
植物を食べている昆虫の多くは、決まった植物だけを食べます。ナミアゲハも、幼虫がミカン科植物の葉だけを食べるので、メス成虫が植物種を正確に識別して、適切な植物に産卵しなければ、卵から孵った幼虫が餓死してしまう。メス成虫の食草認識には、前脚で感じる味の情報が使われている。前脚ふ節には化学感覚子と呼ばれる特殊な毛(感覚毛)があり(図1)、葉の表面を叩きながら(ドラミング行動)ミカン科植物に含まれている化合物を“味”として感じとっていることが知られていた。しかし感覚毛が産卵誘導物質をどのように認識し、その情報をどのように伝達して産卵行動が起きるのかについて、仕組みは全く分かっていなかった。
この研究では、感覚毛の神経細胞には産卵誘導物質を認識し、その情報を伝達する機能をもつ受容体が存在すると仮説をたて、感覚毛で働いている遺伝子群の中から味覚受容体遺伝子を発見し、その機能を明らかにした。まず、メス蝶の感覚毛の中でだけ働いている味覚受容体(図2)の遺伝子を発見し、遺伝子から作られる受容体タンパクが産卵誘導物質の1種であるシネフリンを認識することを明らかにした。次いで受容体遺伝子の一部から合成した二重鎖RNAが、アゲハチョウでも遺伝子の働きを阻害すること(RNA干渉)を発見、この二重鎖RNAを注射した蛹から羽化した個体を用いて、ふ節の感覚毛のシネフリンに対する応答と、さらには産卵行動そのものが強く抑制されることを観察した。このことは、前脚ふ節感覚毛細胞に存在する味覚受容体が植物成分を認識し、その刺激の神経細胞による伝達を介してメス蝶の産卵行動を制御していることを示している。
今回の発見は、ファーブル以来謎とされていた昆虫の本能のひとつである食草選別能力を初めて遺伝子レベルで明らかにしたもので、昆虫と植物という異種生物を結び付けている仕組みと食性転換を出発点とする植食性昆虫の種分化・多様化の理解につながるものである。

図1

図2
- ※「Nature Communications」 (2011年11月15日付)に掲載されました。
【プレスリリース[PDF]はこちら】 - ※論文はこちらでご覧になれます。
ハエとクモ、そしてヒトの祖先を知ろう!ラボの、遺伝子発現の波が繰り返し分裂することを発見した論文がオンライン科学雑誌「Nature Communications」 に掲載されました。
動物のからだの軸に沿った反復構造は、胚の中で形作られる体節と呼ばれる繰り返し単位に由来する。この体節が形作られる過程(体節形成)は、生物において空間的周期パターンがどのような仕組みで作り出されるかを理解するための格好の研究対象で、これまで理論と実験の両面から研究されてきた。モデル生物として有名なショウジョウバエでは「固定領域での段階的な細分化」による体節形成が、脊椎動物のモデル生物(マウスやニワトリなど)では「遺伝子発現の振動」による体節形成が知られているが、実験生物学は古典的モデル生物に大きく依存してきたために、それら以外の体節形成に関して知識が乏しかった。一方、理論(反応拡散系)による研究では、既存の波の頂点部分が広がるとともにその頂点が二つに分裂する様式で反復パターンが生じうることが示されていた。 しかし、このような現象が実際の生物で明確に示されたことはなかった。
今回、大学院生の金山真紀を中心に進めてきた研究で、ヘッジホッグと呼ばれる遺伝子の発現がオオヒメグモ胚頭部の軸の伸長に伴って波のような振る舞いを示すことを発見した。その遺伝子発現のストライプ状の波はオオヒメグモ胚の前端から後方に向けて細胞から細胞へ伝播した後、繰り返し分裂した(図)。2回の「波の分裂」によって最初に触肢の体節領域が、次に鋏角の体節領域が作られる。さらに、遺伝子の働きを阻害する実験を行って、遺伝子発現の波を安定に維持する遺伝子(otd)と波の分裂を促進する遺伝子(opa)を明らかにした。ヘッジホッグタンパク質は拡散性のシグナル分子として働くことが知られているが、そのシグナルはクモ胚の頭部ではotdとopaの発現を促進する一方、これらの遺伝子を介してフィードバック制御を受けていることが分かった。この仕組みは反応拡散理論が想定する仕組みとも矛盾しなかった。
ハエとクモ、そしてヒトの祖先を知ろう!ラボの、遺伝子発現の波が繰り返し分裂することを発見した論文がオンライン科学雑誌「Nature Communications」 に掲載されました。
動物のからだづくりにとって重要な体節形成は、これまで主に“固定領域の段階的な細分化”と“遺伝子発現の振動”による2つの様式が知られていたが、今回新しく第三の様式“波の分裂”を発見した。第一の様式は階層的な(トップダウン方式の)遺伝子相互作用を必要とし、第二の様式は時間的な遅れをもつ負のフィードバック制御を必要とする。今回の第三の様式はotdの関わる正のフィ-ドバック制御とopaが関与する未解明のフィードバック制御を必要とすることが考えられた。ここで用いられるヘッジホッグやotd, opaは、ショウジョウバエでは“固定領域の段階的な細分化”に用いられており、同じ節足動物の体節形成でも動物によって遺伝子の使われ方が異なっている点は、動物の形態進化のメカニズムを理解するための重要な手がかりとなる。今回の発見は、太古の多細胞動物が最初どのような仕組みで体の反復構造を作り出すことに成功したのかを理解することにつながる。
- ※「Nature Communications」(2011年10月11日付)に掲載されました。【プレスリリース[PDF]はこちら】
- ※論文はこちらでご覧になれます。
ハエとクモ、そしてヒトの祖先を知ろう!ラボの小田広樹主任研究員の、細胞間接着分子の多様性に関する総説論文が国際学術専門誌に掲載されました。この論文では、細胞と細胞をつなぐ分子の構造が動物の進化とともに大きく変化したことを示した最近の研究を紹介しています。
※論文の要旨は、こちらでご覧になれます。

Developmental Dynamicsに掲載された論文。
脊椎動物の眼は、その構成要素を網膜と水晶体(レンズ)に大別できる。網膜はその由来を間脳の一部に辿ることができるが、レンズは表皮の一部から形成される。古典的なモデルでは、発達中の網膜である眼胞が表皮に接触することにより、その表皮がシグナルを受け取りレンズに分化すると説明されている。以来、シグナルの物理的実体の同定に力が注がれてきたが、どのような表皮でも眼胞からのシグナルを受け取ればレンズに分化できるわけではないという重要な事実が、軽視されてきたことを指摘せねばならない。つまり、シグナルの受け手としての表皮にも適性(competence)があるわけだが、この実態はほとんど明らかにされていなかった。私たちがこれまで注目してきた Xhairy2 遺伝子の機能解析の結果、眼の形成過程において、知られている限り最も早い時期から Xhairy2 がレンズ形成に特異的に必要とされることが明らかになった。このメカニズムとして、表皮の一部で Xhairy2 が発現することによって、分化状態を促進し細胞周期を停止させる活性のある p27xic1 の発現が抑えられているということを見いだした。以上の結果から、Xhairy2が存在することにより、レンズになるべき表皮の細胞が、シグナルを受け取るまで未分化で増殖可能な状態を維持していることが示唆される。これらの状態が、レンズ適性の実態の一部ではないかと私たちは考えている。

図.Xhairy2を胚の片側だけで機能阻害したオタマジャクシ頭部の横断切片像。レンズはγ-crystallinで免疫染色してある。AとBの比較から、Xhairy2の機能阻害によりレンズが形成不全を起こしていることが分かる。