生命誌ジャーナル

<2018年間テーマ>

容 いれる ゆるす
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RESEARCH研究を通して02共生|植物|分子

寄生植物と宿主の根深い関わり

白須 賢(理化学研究所 環境資源科学研究センター)

   植物は本来、自らの根と葉で水と光を得て栄養をまかなう生きものである。しかしその生き方を捨て、他の植物から水と栄養を奪うようになった寄生植物が、世界中に存在する。彼らはどのように進化してきたのだろう。

1.植物に寄生する植物

 世界最大の花を咲かせるラフレシア、香木として知られるビャクダン(白檀)、冬になると枯れ枝に青々とした葉を残して花を咲かせるヤドリギ(宿り木)。これらは皆、他の植物に寄生して水や栄養を奪う寄生植物である。寄生植物は世界中に4,000種以上が存在し、全被子植物の約1%を占める。
 被子植物の進化を見渡すと、寄生植物への進化は12の系統で独立に起きたことがわかる(図1)。本来水も栄養も自らまかなう植物の中から、他に寄生する生き方を選んだ種がこれほどの頻度で現れたのは、どうしてなのだろうか?

図1:被子植物のさまざまな系統に存在する寄生植物赤色で示したものが寄生植物を含む系統。

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2.ハマウツボ科の寄生植物たち

 私たちが着目するハマウツボ科の植物は、1属を除く全てが寄生植物からなる。前述した宿主への依存度の異なる寄生植物がすべて含まれており、寄生性の進化を探るのに適したグループである(図2)。ハマウツボ科の寄生植物は日本に数多く存在する。春に皇居のお堀のそばに咲くヤセウツボ、秋に多様な形の花を咲かせるシオガマギクやコシオガマ、ススキに寄生するナンバンギセルなどである。万葉集に「道の辺の 尾花が下の 思ひ草 今さらさらに なにをか思はむ」(尾花=ススキ、思ひ草=ナンバンギセル)と、宿主と寄生植物の2種を正確に詠み込んだ一首がある。寄生植物は、古くから日本人に身近な生きものなのである。
 同じハマウツボ科でアフリカに生息するストライガは、トウモロコシ、ソルガムなどの作物に寄生して収穫量を減少させ、その農業被害は年間1兆円に及ぶとも言われる。未だ有効な駆除法は確立されておらず深刻な問題となっている。私たちは、ストライガを含むハマウツボ科植物で寄生の分子機構を明らかにしようとしており、これがこのような問題の解決につながればとも思っている。

図2:ハマウツボ科の植物たち

 同じハマウツボ科でアフリカに生息するストライガは、トウモロコシ、ソルガムなどの作物に寄生して収穫量を減少させ、その農業被害は年間1兆円に及ぶとも言われる。未だ有効な駆除法は確立されておらず深刻な問題となっている。私たちは、ストライガを含むハマウツボ科植物で寄生の分子機構を明らかにしようとしており、これがこのような問題の解決につながればとも思っている。

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3.寄生に必要な器官

 すべての寄生植物は、「吸器」と呼ばれる寄生に特異的な器官をもつ。吸器は宿主内部に侵入して最終的には宿主の維管束にたどり着き、その名の通り水や栄養を吸い込むのである。寄生植物には、茎の吸器で宿主の茎に侵入するものと、根の吸器で宿主の根に侵入するものがあるが、ハマウツボ科の植物はすべて根から根へ寄生するタイプである(図3)

図3:ハマウツボ科のコシオガマによる寄生上:吸器を通して、宿主から寄生者へ水や養分が流れる。
下:宿主のシロイヌナズナの葉でつくられた養分が、吸器を通してコシオガマへ吸い取られていくようす。養分を蛍光染色して撮影した。

 従来、吸器を通して移動するのは水と栄養のみと考えられていたが、ゲノム解析技術の進歩により、寄生植物が吸器を通して宿主から遺伝子を獲得した事例が見つかってきた。ストライガがもつ遺伝子のいくつかが、宿主のソルガム由来であることがわかったのである。具体的なメカニズムは不明だが、メッセンジャーRNAとして宿主からストライガに取り込まれ、ゲノムに入り込んだ可能性が高い。この可能性を支持するように、最近、ヒルガオ科の寄生植物であるネナシカズラに、宿主由来のメッセンジャーRNAが大量入り込んでいる例が報告された。ストライガが宿主から獲得した遺伝子の機能はまだ分かっていないが、吸器を介して水と栄養だけではなく様々な物質のやりとりがあることは明らかになった。寄生植物と宿主の関係を考える上で重要な知見である。

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4.宿主を太らせる

 そこで私たちは、ハマウツボ科の植物のゲノムを解読し、寄生に関わる遺伝子を調べることにし、ハマウツボ科の中でも小さくて実験に適したコシオガマをモデル植物とした実験系を立ち上げた。
 シロイヌナズナを宿主としてコシオガマを寄生させると、シロイヌナズナの根が4倍にまで肥大化することがわかった。これは寄生された植物によく見られる現象である。ヤドリギがとりついた樹木の枝が膨らんでいるのがこの例で、宿主の組織が異常な二次成長によって肥大化しているのである。私たちは遺伝子とその化合物を分析し、この肥大化現象はコシオガマ自らが生合成した植物の成長ホルモン、サイトカイニンによって起きていることを突き止めた。コシオガマは吸器を介してホルモンをシロイヌナズナの根へと送り込み、宿主の二次成長を引き起こしているわけである(図4左)。宿主の栄養の運搬経路である維管束を太らせることで、効率的な栄養奪取を可能にしているのだ。実際に、組織が肥大化したシロイヌナズナは、単独で生きるシロイヌナズナよりも大幅に成長が抑制されることがわかった(図4右)

図4:宿主へのサイトカイニン注入による維管束の肥大左:コシオガマは宿主の維管束を太らせ、水分や養分の移動量を高める。
右:コシオガマに寄生されたシロイヌナズナは、単独で生きるシロイヌナズナよりも成長を抑制される。

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5.吸器はどうやってできる?

 発芽したばかりのストライガは、近くに宿主の根があれば吸器を形成して寄生を開始するが、同じハマウツボ科の植物の根は避けて通ることが知られている(図5)。つまり、宿主の根と近縁種(または同種)の根を区別できるのである。解析の結果、ストライガはキノン化合物の一種によって宿主を認識し、寄生を始めることがわかった。宿主植物から単離されたキノン化合物は、細胞壁の構成物質であるリグニンの分解産物と思われる。

図5:ストライガの種子の発芽近くに宿主となる植物の根がある場合は吸器を形成し(上)、近縁種の根がある場合はUターンする(下)。

 そこで、コシオガマを用いてこの現象を詳しく調べた。まずリグニンの構成を変化させたシロイヌナズナにコシオガマを寄生させてみたところ、吸器は形成されなかった。コシオガマもストライガと同様、リグニンの分解産物によって宿主を認識しているのである。遺伝子の発現解析から、コシオガマはリグニンの分解産物を認識すると、植物ホルモンであるオーキシンの合成酵素遺伝子の発現量を上げることがわかった。発現量は寄生植物が宿主に接する根の表皮細胞でまず上昇し、オーキシンが局所的に増える。オーキシンによる細胞分裂の誘導でカルス(細胞塊)が生じ、これが吸器となって宿主の根を突き破り、維管束にたどり着くのである(図6)。吸器が宿主の維管束と結合する機構はまだわからないが、おそらく接ぎ木のようなしくみがはたらいているのではないかと推測している。自然界では、人為的に不可能とされてきた異種間の接ぎ木がおこなわれていると考えると非常に興味深い。

宿主由来の細胞壁の成分(リグニン)を認識する。
表皮細胞(黄)でオーキシンの合成が活発化し、細胞分裂が促進される。
細い根(吸器毛)が宿主をとらえ、吸器が宿主の根を突き破って侵入する。
吸器を介して寄生者の維管束と宿主の維管束がつながる。

図6:コシオガマの吸器の形成過程

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5.寄生の起源

 コシオガマはこの接木のような寄生能力を、どのようにして獲得したのだろう。また、寄生能力の獲得はなぜ独立に12もの系統で起こりえたのだろう。前述のとおり、寄生の成立には、宿主を認識する能力と、認識した部分で細胞分裂を起こし、吸器を形成する能力が必要である。これらの能力はいずれも、植物が共通してもつしくみの応用と言える。前者は、植物が備えている免疫のしくみに相当すると考えられる。植物の免疫は病原体や他種などの非自己に由来する化合物を認識するもので、動物の自然免疫と同等のしくみである。特定の化合物の認識は膜貫通型受容体や細胞質内の免疫受容体のはたらきによる。寄生植物はこのしくみによって宿主由来の化合物を認識している可能性が高い(図7上)。そして後者は、植物の根を枝分かれさせるしくみに相当する。植物の根が枝分かれする時には、局所的にオーキシンの合成が活発になり細胞分裂が促され、枝分かれした根が伸びていく。これは寄生植物の吸器の形成のしくみとほぼ同じである(図7下)

図7:寄生性は植物に共通のしくみの組み合わせ上:植物の免疫では、化合物によって病原体や他種の存在を認識し感染や寄生を防ぐ。
下:根の成長過程では、オーキシンの作用で根が肥大し、新しい根が枝分かれする。

 本来なら非自己を認識して防御応答を起こすべき免疫のしくみが、何かのきっかけで細胞分裂を誘導したと考えると、寄生能力の獲得はそれほど難しくないようにも思えてくる。この考えを検証するため、私たちは宿主由来の化合物を認識する受容体の遺伝子を突き止めたいと思っている。吸器はハマウツボ科に限らずすべての寄生植物がもつことを考えると、ここから寄生という性質の起源が見えてくるかもしれない。

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白須賢(しらす・けん)

1993年カリフォルニア大学デービス校遺伝学科にて遺伝学Ph.D取得。ソーク研究所・ノーブル研究所博士研究員、セインズベリー研究所研究員・グループリーダーを経て、2005年より理化学研究所グループディレクター。2008年より東京大学大学院理学系研究科教授(兼任)。

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