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Katsuhisa Ozaki, Masasuke Ryuda, Ayumi Yamada, Ai Utoguchi, Hiroshi Ishimoto, Delphine Calas, Frédéric Marion-Poll, Teiichi Tanimura & Hiroshi Yoshikawa(2011)

A gustatory receptor involved in host plant recognition for oviposition of a swallowtail butterfly

Nature Communications doi: 10.1038/ncomms1548

 植物を食べている昆虫の多くは、決まった植物だけを食べます。ナミアゲハも、幼虫がミカン科植物の葉だけを食べるので、メス成虫が植物種を正確に識別して、適切な植物に産卵しなければ、卵から孵った幼虫が餓死してしまう。メス成虫の食草認識には、前脚で感じる味の情報が使われている。前脚ふ節には化学感覚子と呼ばれる特殊な毛(感覚毛)があり(図1)、葉の表面を叩きながら(ドラミング行動)ミカン科植物に含まれている化合物を"味"として感じとっていることが知られていた。しかし感覚毛が産卵誘導物質をどのように認識し、その情報をどのように伝達して産卵行動が起きるのかについて、仕組みは全く分かっていなかった。
 この研究では、感覚毛の神経細胞には産卵誘導物質を認識し、その情報を伝達する機能をもつ受容体が存在すると仮説をたて、感覚毛で働いている遺伝子群の中から味覚受容体遺伝子を発見し、その機能を明らかにした。まず、メス蝶の感覚毛の中でだけ働いている味覚受容体(図2)の遺伝子を発見し、遺伝子から作られる受容体タンパクが産卵誘導物質の1種であるシネフリンを認識することを明らかにした。次いで受容体遺伝子の一部から合成した二重鎖RNAが、アゲハチョウでも遺伝子の働きを阻害すること(RNA干渉)を発見、この二重鎖RNAを注射した蛹から羽化した個体を用いて、ふ節の感覚毛のシネフリンに対する応答と、さらには産卵行動そのものが強く抑制されることを観察した。このことは、前脚ふ節感覚毛細胞に存在する味覚受容体が植物成分を認識し、その刺激の神経細胞による伝達を介してメス蝶の産卵行動を制御していることを示している
 今回の発見は、ファーブル以来謎とされていた昆虫の本能のひとつである食草選別能力を初めて遺伝子レベルで明らかにしたもので、昆虫と植物という異種生物を結び付けている仕組みと食性転換を出発点とする植食性昆虫の種分化・多様化の理解につながるものである。

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