昭和13年に東京で生まれたらしいの。らしいというのは本当のことは分からないんです。小さいときから堀田の家で育ち、戸籍もそうなっていますが、血のつながった親子ではありません。それを初めて知ったきっかけが遺伝学です。小学校の頃から理科が好きで、先生に教えられて読んでいた本に血液型の遺伝のことが書いてあったのです(註1)。第二次大戦の終戦直後。戦時中肌身離さず持ち歩いた防空ずきんには、怪我をした時の輸血のために血液型が書いてあったことを思いだして、早速クラスメートにアンケート用紙を配って親と自分と兄弟の血液型を書いてもらったんです。するとね、やたらと本に書いてある法則に合わない組み合わせが見つかった。僕もその一人でした。そこでこの本に書いてある法則は間違いだと先生に言ったら、たちまち先生の顔が青くなってアンケートは取り上げられてしまいました。やっぱり本は正しかったのだと悟りました。日中戦争が始まるころの生まれですから、小学校に入ったばかりの時に空襲で友達が何人も死んでいます。僕も火の中を逃げ回って、九死に一生を得たことが二度ありました。そういう時代ですから、実はよその子供だったり、片方の親としか血がつながってなかったりというのが結構あったのです。でも血がすべてではない。そういう苦しい時代を一緒に暮らした人間のつながりこそ本当の関係を作りだすものですよね。
理科は好きでしたが、花や動物の名前を覚えるだけのような学校での生物学は最後まで嫌いでした。僕はこれまでに生物学の講義を受けたことがない、遺伝学の講義も受けたことがない、自分がやってることは人に教わったことがない、やりたいからやってるんだって威張って言うんですけどね。理科の中では実証的な物理や化学が面白いと思っていました。当時一番感銘を受けた本は、『少年技師の電気学』。オームの法則が書いてあったんです(註2)。電圧と電流の関係を、水道管を流れる水の圧力と流れで説明する図が載っている。僕はそういうのを読むとすぐに、これは本当だろうかと思って確かめたくなる。血液型の時もそうでしたけどね。先生に聞きに行ったら、じゃあ測ってごらんなさいと言ってテスターを貸してくれた。身近にあった、100Wの電球でやってみました。100Wなら100ボルトで1アンペア流れるはずだから100オームあるはずだと計算しておいて測ったら数オームしかない。疑ってみたらやっぱり違うじゃないか、と張りきって先生に報告したんだけどちゃんと説明してくれなかったな。物理学が専門じゃなかったのかもしれません。実は電球のフィラメントは熱によって抵抗が変わるので、テスターで測っても100オームにならないのが正しいんだということは後になって知るんですけどね。もっと小さいときには、スピーカーから声が出るのが不思議で、あの中には絶対人がいると思ってこじ開けたこともあります。すぐに調べたり、分解してみたりする子供でしたね。楽しかったな。
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中学校入学の時。 |
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| [註1:血液型の遺伝] |
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| ヒトのABO式血液型は、両親からA,B,Oのどの遺伝子を受け継ぐかで決まる。例えば両親がA型の場合、子供の血液型はAかOの通常2通りしかない。 |
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子供の頃は実証的な物理学が好きだった。当時最も感銘を受けた『少年技師の電気学』(山北籐一郎著) |
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| [註2:オームの法則] |
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| 導線を流れる電流と電圧は比例関係にあるという法則で、電圧(ボルト)=電流(アンペア)×抵抗(オーム)の式が成り立つ。一方電力(ワット)は電圧×電流の関係にあるので、100ワットの電球に100ボルトの家庭用電圧がかかると1アンペアの電流が流れ、その時の抵抗は100オームと予想できる。 |
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