論文

Ishiwata, K., Sasaki, G., Ogawa, G., Miyata, T. and Su, Z.-H. (2011)

Phylogenetic relationships among insect orders based on three nuclear protein-coding gene sequences.

Mol. Phylogenet. Evol. 58: 169-180.

解説

 昆虫の高次分類群(目)間の系統関係を解明した論文が「Molecular Phylogenetics and Evolution」に掲載されることになりました。 昆虫は地球上もっとも多様化した動物群で、生物の進化・多様化を研究するための格好な材料である。しかし、昆虫の系統関係を解明しない限り、昆虫の進化と多様化を理解することはできない。昆虫の高次分類群間の系統関係はこれまでに形態情報と分子データを用いた多くの研究が行われてきたが、目間の系統関係は依然不明なままか、論争となっている。このことからも昆虫の系統関係の解明はいかに難しいかがうかがえる。新しいアプローチとして、本論文は3つの核タンパク遺伝子のアミノ酸配列を用いて、昆虫のすべての目を含めた系統解析を行った。その結果、完全変態類昆虫の目間の系統関係をほぼ完璧に解明することができた。特に、ハチ目が完全変態類の最も祖先的な系統であることと、ネジレバネ目(その系統的位置が長く論争されてきた)がコウチュウ目に近縁であることが明らかになったことは注目すべきである。また、本研究は初めて多新翅類の単系統性(共通祖先から由来する)を分子系統で強く支持し、旧翅類(トンボ目とカゲロウ目)、新翅類、完全変態類の単系統性も確認された。さらに、本研究に用いた3つの核遺伝子は、昆虫の系統関係だけではなく、他の節足動物の系統解析にも有効ではないかと示唆された。

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