論文

Nishihara A. and Hashimoto C. (2014)

Tail structure is formed when blastocoel roof contacts blastocoel floor in Xenopus laevis

Develop.Growth Differ. 56, 214-222

解説

 両生類のオーガナイザーは、切り取る時期に応じてその活性が異なり、原腸胚後期の原口背唇部を切り取って移植した場合には尾部の形成が誘導され、この移植された組織を「尾部オーガナイザー」と呼ぶ。尾部オーガナイザーはこれまでに一部の有尾両生類による報告はあったものの、アフリカツメガエルでは移植によって尾部の形成を誘導することは見られていなかった。
 今回、後期胞胚・初期原腸胚の胞胚腔の屋根を傷付けることで、移植片の存在無しに異所的な尾部の形成が誘導されることが分かった。この異所的な尾部形成過程に発現する種々の遺伝子は本来の尾部形成に必要な遺伝子と一致し、また、本来の尾部形成を阻害することが知られているFGFの阻害をすることで、異所的な尾部形成も阻害されることが分かり、この「傷つけ」による尾部形成機構は本質的に正常発生過程で本来の尾部が生じる機構に等しいことが示された。さらに、この異所的な尾部形成は、「傷つけ」自体によって誘導されるのではなく、傷付けたことで胞胚腔が潰れることで胞胚腔の屋根と床が物理的に接することによることが示された。
 この胞胚腔の屋根と床の接触は、原腸形成後期に尾部形成領域で見られる組織同士の接触によく似ており、尾部形成過程にオーガナイザーと呼ばれる魔法の機能領域を持ち出さなくても、正常な形態形成運動によって、「正しい時期に正しい組織同士が接触することで本来の場所に正しく尾部を形成させるのではないか?」という新しい考えもできる。ツメガエル以外のいくつかの両生類で見られる「尾部オーガナイザー」に関しても、誘導という概念ではなく組織の接触という立場から見たときに新しい発見があるのかもしれない。
 また、この異所的な尾部形成は、発生の比較的早い時期に簡単に誘導でき、複雑な形態形成過程を踏まないことから、尾部形成の分子機構を詳細に解析する優れた実験方法となる可能性を示唆する意味でも重要だろうと感じる。

※この論文は、DGD奨励賞(DGD Young Investigator Paper Award 2015)を受賞しました。

◆受賞理由◆
 両生類胚を用いた古典的な「オーガナイザー」実験を行う際には、胚の外面に穴を空けて組織を「投げ込む」方法がとられることが多い。しかしこの論文において著者は、アフリカツメガエルの胞胚に穴をあけて、胞胚腔の中の液を流しだして、外層と内層が直接触れるようにするだけで、2次的な尾を発生させることができることを示した。この条件下での2次的な尾の発生は、正常の尾の発生と同様にFgfシグナルの作用に依存し、また同様の遺伝子群の経時的な発現を伴う。この論文は、「尾部オーガナイザー」の作用が本当はどのようなものであるのか?また尾部の構造を発生させるのはどのような機構であるのか?といった問題に対して、現代的なアプローチによって再検討することが必要であることを示しており、その学術的な価値からDGD Awardにふさわしいと判断した。

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