ラボ日記

研究セクターのメンバーが、日常で思ったことや実験の現場の様子を紹介します。月二回、メンバーが交替で更新しています。

2018年10月1日

オサムシの後翅の退化

蘇 智慧

昨年の夏のラボ日記にオサムシの翅の話について書きましたが、もう少し書いてみたいと思います。オサムシの翅は、ほかの甲虫類と同じ前翅と後翅に分かれ、前翅は固くなって基本的に体の保護に特化しており、飛翔機能を持っているのは後翅のみです。オサムシが飛べないというのは、その後翅が退化しているためです。オサムシはなぜ、どのように後翅を退化して、一見有利な飛翔能力を失ったのか、それは興味深い問題です。しかし、なぜという質問に答えるのは非常に難しく、あくまでも推測の域を超えませんが、恐らく生息環境による影響であろうと考えられます。後翅を作って飛翔能力を維持するために多大なエネルギーが必要です。そのエネルギーの投資をほかに回し、飛べないリスクを勘案してもより多くの子供を残すことができる環境になれば、後翅の退化が選択されるでしょう。

「なぜ」と比べ、「どのように」という質問は実証研究によって答えることが可能になってきたと思われます。しかし、オサムシが後翅を退化していると一言で言っても、オサムシの後翅がさまざまな形として残っていることは、稲泉(1966)の研究によって明らかになっており、その実態をより詳細に把握することは「どのように」を答えるための最初のステップでしょう。実は以前のオサムシ研究に携われていた主要メンバーが昨年からこの研究ステップを進めるために始動しており、新しい知見も得られつつあります。それらの知見はすでに「昆虫DNA研究会ニュースレター(2017年9月号)に発表しており、日本学士院のProc. Jpn. Acad. Ser. B誌にも受理され、来月に公表される予定です。主要な知見を紹介しますと、もっとも祖先的な系統であるセダカオサムシ族(オサムシの族・亜族の系統関係は2017年7月のラボ日記をご参照ください)は、後翅が完全に退化しており、痕跡も見られません。オーストラリアオサムシ族は針状の後翅の痕跡が残っています。より新しい系統であるオサムシ亜族では、種によってさまざまな形の後翅の痕跡が残っており、また、飛べるカタビロオサムシ亜族では、後翅を退化しているものも見られました。このような結果から考えますと、昨年のラボ日記に書きました、オサムシの後翅の退化に関する2つの仮説について、恐らくカタビロオサムシの後翅獲得仮説より、それぞれの系統で後翅が独立的に退化した可能性が高いと思われます。現在、後翅の退化が「どのように」起きたという分子的メカニズムを解明するために、オサムシの飼育を奮闘しているところですが、近いうちに新しい成果をご報告することができればと思います。

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