ラボ日記

研究セクターのメンバーが、日常で思ったことや実験の現場の様子を紹介します。月二回、メンバーが交替で更新しています。

2016年2月1日

クマムシのゲノム

蘇 智慧

2016年はあっという間に1ヶ月が過ぎようとしています。暖冬と言われているこの冬は、一転して日本列島が記録的な寒さと大雪に覆われています。しかし、月末にはまた3月中旬や夏日並みの暖かい天気になるそうです。このような環境の変化を思いながら、今回はクマムシのことについて少し書いてみたいと思います。

クマムシは極度の乾燥耐性を有することで有名な動物であり一般的にも広く知られています。周囲の環境が乾燥してくると、体を縮め代謝をほぼ止めて休眠状態にしたままその環境を乗り越えます。水に接するとふたたびもとの体に戻り動き出します。乾燥以外にも極度の温度や圧力、放射線、有機溶媒などに耐性をもち、また真空耐性のある唯一の動物としても知られています。地球上のほとんどありとあらゆる環境に生息しているのもこのような様々な環境耐性をもっているからだと思われます。

昨年末にクマムシのゲノム配列がアメリカのノースカロライナ大学の研究チームによって決定され、その論文は「米国科学アカデミー紀要」(2015年12月29日号)に発表しました。クマムシのゲノムにどんな進化が起きていたのか、耐性との関連について誰もが知りたいところです。その論文によると、①クマムシのゲノムには前例のない大量の外来遺伝子が存在しています。②その数はクマムシゲノム上の総遺伝子数の6分の1を占め、主にバクテリアに由来しています。③それらの外来遺伝子の中に、耐性に関わる遺伝子も含まれています。④外来遺伝子の獲得はクマムシの進化過程にわたって起きています。

極めて納得しやすい結果でした。大規模の遺伝子を別の生物種から取り入れて改造し新しい機能の獲得に利用したクマムシは生物種間の関わりが進化に大きな力を与えていることを改めて示してくれました。地球上の生物は共通祖先から枝分かれして独自の進化を遂げてきましたが、その地球という場所には長い間、常に多くの生物種が隣り合わせに関わりながら生活してきたのも忘れてはいけません。生物種間では互いに利益を共有する「共生関係」もあれば、相手から利益ばかりをもらう寄生関係もあります。しかし、例え現在は寄生関係であっても、長い進化の過程ではいつかは相手から利益をもらえる可能性が秘められていることがクマムシのゲノムから教えられたような気がします。

注:まだ正式な発表ではないが、イギリスのエディンバラ大学の研究チームからもクマムシのゲノム配列を独自に公表しています。それによれば、アメリカの研究チームが発表した配列データにはバクテリアからの混入があり、クマムシのゲノムにある外来遺伝子の数はそれほど大規模なものではないそうです。両研究チームによる最終の結論を待ちたいです。

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