論文

Natsuki Hemmi, Yasuko Akiyama-Oda, Koichi Fujimoto, and Hiroki Oda(2018)

A quantitative study of the diversity of stripe-forming processes in an arthropod cell-based field

Developmental Biology, 437(2):84-104
DOI: 10.1016/j.ydbio.2018.03.001

解説

オオヒメグモの体節形成に関わる縞パターン形成を定量的に解析し、一続きの細胞シート内で起こる3つの異なる縞パターン形成プロセスを記載した論文が、国際学術雑誌「Developmental Biology」に掲載されることとなり、3月16日にオンラインで先行公開されました(https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0012160617309089)。
 節足動物の共通の形態的特徴として、体の軸に沿って繰り返し構造を持つことが挙げられます。この特徴を形作るプロセス(過程)は種によって、また、体の部域によって様々であることが昆虫やクモを含む、いくつかの節足動物種の実験研究から示唆されてきました。一方、理論研究では、知識が豊富な双翅目昆虫(ショウジョウバエ)を基本モデルとして、縞パターン形成原理の探究がなされてきました。しかし、多くの昆虫種が多核性胞胚(細胞質を共有する多核の胚)を経て縞パターン形成を開始するため、純粋な細胞環境(それぞれの核が細胞膜で隔離され、別々の細胞質を持つ環境)における縞パターン形成原理の探究は節足動物ではほとんど進めることができていません。そのため、節足動物に見られる多様な縞パターン形成プロセスがどのようなメカニズムに起源しているのか、私たちの理解は全く十分とは言えない状況にあります。細胞環境を胚発生の早くに確立するオオヒメグモは、そのような困難な状況を打開しうる有力なモデル生物です。
 今回私たちはオオヒメグモ胚の一続きの細胞シート内で起こる縞パターン形成を、細胞追跡データと遺伝子発現の定量データに基づいて解析し、体の部域によって異なる3種類の縞パターン形成プロセスを記載しました。具体的には、頭部における縞パターンの反復分裂、胸部における同調的分割、後体部における振動による周期的縞パターン生成です。細胞シートの両端領域(頭部と後体部)で、対照的なパターンの動態(「分裂」対「振動」)が生じていることを示したことが今回の記載の注目ポイントです。
 今回の定量解析のひとつの特徴は、異なるパターン形成プロセスを共通の時空間的枠組みで記載したことです。細胞シートの形状計測に基づいて体の軸の伸長具合を数値化し、その数値と縞パターンの発展を関連づけたことによって可能となりました。どの程度のスピードで細胞シート全体が変形し、その変形にそれぞれの部域がどれだけの比率で貢献しているのかを具体的な数値で示すことができました。頭部の縞パターンの分裂の反復にかかる時間や、後体部の発現振動の周期も概算することができ、どちらも約5時間であることが分かりました。これらの定量データは、今後理論的な研究を展開して行く上で重要な基礎データとなります。
 今回の論文には、オオヒメグモ胚における細胞の挙動と遺伝子発現パターンの変化を示すために多数の動画が集録されています。教科書で広く知られているショウジョウバエ胚とは大きく異なるパターン形成が、オオヒメグモ胚の中で繰り広げられていることを直感的に理解できるように構成されています。形態形成の場を構成する独立した細胞が互いの位置関係を変えながら如何に反復縞パターンを作り上げるのか、現在そのメカニズムの解明に取り組んでいます。

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