チョウは食草の選び方を生まれながらにして知っています。
本能のしくみを分子の言葉で理解し、どの様な変化が進化を引き起こしたのか解明します。

 

研究内容

アゲハチョウの仲間は、それぞれの幼虫が特定の植物のみを食草として利用するので、メス成虫が正確に植物を識別して、産卵場所を間違えないことが次世代の生存を左右します。それでは、メス成虫はどのようにして数多くの植物の中から幼虫に適した食草を選択しているのかというと、そのヒミツは前脚の先端にある「ふ節」と呼ばれる部分にあります。ふ節には化学感覚子があり、植物含まれる化合物を認識することができるのです。

アゲハチョウのメス成虫は、産卵の前に植物の葉の表面を前脚で叩く「ドラミング」と呼ばれる行動を示しますが、その時に植物に含まれる化合物(味と考えれば解りやすい)を感じ取っているのです。例えば濾紙やブラスチック製の人口葉にアゲハチョウの産卵を促す物質(産卵刺激物質)を塗ってチョウに触れさせると、それを食草であると勘違いをして卵を産んでしまいます。

化学感覚子の中ではおそらく、化合物が結合する受容体と、受容体へ化合物を運搬する結合タンパクを中心とする、「産卵刺激物質受容システム」が働いていると考えられます。このシステムに関与する遺伝子とその機能を解明することで、アゲハチョウの食草転換による進化を解明してきたいと考えています。

 

 

最新の論文一覧はこちら

Hitomi Miyazaki, Jun Otake, Hidefumi Mitsuno, Katsuhisa Ozaki, Ryohei Kanzaki, Anna Chui-Ting Chieng, Alvin Kah-Wei Hee, Ritsuo Nishida, Hajime Ono(2018)

Functional characterization of olfactory receptors responding to plant volatiles in the Oriental fruit fly, Bactrocera dorsalis

Insect Biochem. Mol. Biol. 101, 32-46

  

Ai Muto-Fujita, Kazuhiro Takemoto, Shigehiko Kanaya, Takeru Nakazato, Toshiaki Tokimatsu, Natsushi Matsumoto, Mayo Kono, Yuko Chubachi, Katsuhisa Ozaki & Masaaki Kotera (2017)
Data integration aids understanding of butterfly–host plant networks
Scientific RepoRts | 7:43368 | DOI: 10.1038/srep43368

※ 論文はこちらでご覧になれます。

蝶や蛾の仲間の多くは植食性で、食草の変更が多様化や種分化に最も大きな影響したと考えられています。しかし、食草選択がどのように行われているか、基盤となる仕組みなどは十分に理解されているとは言えません。図鑑や論文には、蝶と食草の関係について多くの情報が蓄積されていますが、それらを全て読み込み記憶し、知識として活用するのは困難です。

そこで我々は、日本の蝶について文献情報をデータ化し、蝶と植物の関係と系統関係を組み合わせ、統計学的に解析を行いました。その結果、基本的に蝶は科という分類単位ごとに決まった科の植物に依存していますが、蝶の一部のグループは、分類群の単位を超えて同じ植物を餌として共有していることが明確に示されました。この現象は偶然そうなったのではなく、独立に獲得した適応的な形質であること考えられます。例えば、シロチョウ科の蝶はアブラナ科の植物に強く依存し、シジミチョウ科の蝶はグループごとに様々な植物に依存していますが、これら蝶の一部のグループがマメ科を食草として共有しています。

これに加えて、蝶が依存している寄主植物に特徴的な化合物を統計学的に解析しました。同定された化合物のいくつかは、ある蝶にとっては誘引物質でありながら別の蝶にとっては忌避物質であることが知られているものでした。

さらに、昆虫が作る化合物(におい成分など)を、食草由来の化合物を基質として合成可能か推定するため、公開データベースに登録されているゲノム配列やトランスクリプトーム配列を利用し、酵素反応に関わる遺伝子を予測しました。その結果、いくつかの化合物について、合成経路に関与すると考えられる遺伝子を同定することが出来ました。

我々の成果は、公開されている様々なデータを統合することにより、特定の生物間相互作用に関与すると考えられる化合物をコンピュータによって検出することが可能になり、さらにゲノムやトランスクリプトームのデータを組み合わせることで、食草選択に関与する分子メカニズムの解明を省力化・高速化できることを示しました。

ここから見えてくる、食性転換に関わる分子メカニズムのストーリーを考えてみましょう。蝶が分類群の大きく異なる植物へ食性転換するときには、いきなり違う植物に適応できてしまうのではなく、一旦はマメ科のような代謝能力的に安全と考えられる植物を利用し、その後に既存の代謝関連遺伝子群で対応可能な植物へと移っていき、食性が変わった後に関連する遺伝子群が新たな食草へチューニングされるかのように変化していくのではないかと考えられます。

チョウの進化と食草転換

ミカン科を食草とするナミアゲハ(下)とセリ科を食草とするキアゲハ(上)。キアゲハはアゲハチョウの仲間では新しく分化したとされており、食性転換がきっかけになったと考えられている。ミカン科からセリ科のように大きく異なる植物へ移る際には、踏み石のように間に安全な植物を挟んでいる可能性が示唆された。
 

レクチャー&体験「チョウの飼い方を体験しよう」(19.03.06)資料の公開 

母蝶が正確に植物の種類を見分けて子孫を残す仕組みと、卵から成虫までの飼育方法の紹介する催しを行いました。催しで使用した資料をPDFファイルとしてダウンロードできるようにしましたので、ぜひご活用ください。
 

資料1「チョウはどうやって餌を見つけるか」

資料2「チョウの飼い方」


研究内容

当研究室で使っているアゲハチョウの幼虫の人工飼料のレシピです。

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【ご注意事項】

必ずお読み下さい
業務中は実験等の“中断が難しい作業”を日常的に行っておりますので、
「アゲハ人工飼料飼育プロトコール」やお手元の昆虫の飼育に関する、
電話でのお問い合わせはご遠慮下さい。
 

 

これまでの学位取得者とそのテーマ

■平成19年度 修士論文 宇戸口愛
「アゲハチョウ産卵機構における受容体遺伝子PxutGr1の機能解明への取り組み」
■平成18年度 修士論文 山田 歩
「アゲハチョウの産卵刺激物質受容システムの解明」

これまでの奨励研究員(ポスドク)

■吉澤靖貴 
■龍田勝輔(現: 佐賀大学助教)
■中秀司(現: 鳥取大学准教授)
■中山忠宣(現: 中外製薬)
■小野肇(現: 京都大学助教)